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そう遠くない距離で竜の咆哮が聞こえる。
「ア、アイザックさん…今黒王竜と戦ってるヤツ、ホントに一人なんすかね」
「分からない。彼が嘘を付く理由は無いとは思うが、ウチのギルドに黒王竜と一対一で、しかもこんなに長く足止め出来る者が居たかどうかは疑問だ。君達はどうだ?」
アイザックにそう問われた4人はそろって口を噤むが、内一人が絞り出すようにその質問に答える。
「今出払ってる奴らを入れたとしても、1人では正直無理だと思います」
「そうか…」
次第に炎の勢いが強くなり、剣戟と竜の咆哮が近づいてきた。
「あれだ!」
高く舞い上がる炎と黒煙に囲まれて視界は悪いが、10mは有るだろう黒い竜と一人の冒険者が戦いを繰り広げていた。両者気迫凄まじく、助けに来たアイザック達はその侵し難い戦いに、ついぞ見入ってしまう。
「な、なんだこれは」
「この炎と熱の中で戦ってやがる…」
「信じられん!」
「あっ! 食らった!」
戦場の近くで戦いを見ていた5人は、戦っている冒険者が竜の尾の薙ぎ払いを食らい、吹き飛ばされた瞬間を目撃する。
「だめだ! 止めが来る、全員離れろ!」
瞬間、竜が炎を一直線に放ち、炎が通った跡が灰になっている。凄まじい威力にアイザックを除く4人は恐怖した。
「くそっ! あれは助からん! 俺が行く!」
勇敢に戦っていた冒険者が死に、次は自分の番だとアイザックが動いた瞬間、炎閃に包まれ消滅したと思ったその冒険者が飛び出した。
「なにっ! 生きて!?」
竜に突撃する冒険者は、そのダメージを感じさせることの無い一撃を竜の顔面に入れる。
その一撃で断末魔であろう叫びと共に倒れゆく竜を見て、アイザックは勝負の決着を見た。
「幼体とはいえたった一人で黒王竜を倒してしまうとは…王竜殺し…一体何者なんだ」
アイザック達は倒れた竜に駆け寄り、竜の傍らで眠る冒険者を見つけて救助。
こちらに向かっている討伐隊に竜が黒王竜の幼体であった事、その幼体はたった今倒されたことを報告し、依然燃え広がる炎の鎮火作業に専念するよう伝えた。
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