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数日後、俺はアルバニア冒険者ギルドを訪れた。黒王竜の素材の受け取りと、帝都を出る事を伝える為だ。
「あっ、ジン君! おはよう!」
「おはようございますノーラさん」
「素材の受け取りよね。用意してます! こちらになりまーす」
目の前に置かれたのは、凍った巨大な肉の塊、自分の胴体程の大きさの鱗3枚と腕程の大きさの牙。収納魔法を発動し、それぞれを吟味しながら収納していく。
俺が一番欲しかったのは傷一つ付けられなかった黒王竜の鱗。黒光りするその鱗はずっしりと重いが、同じ大きさの鉄よりも軽く感じる。満足げに眺めた後収納し、今日の本題に入ろうとするがノーラさんの次の報告で、思考が遮断された。
「で、ジン君。黒王竜の素材買取か全て完了しました! しめて…白金貨20枚になりました! 大金貨で200枚になるけどどうする? バンクに入れておく?」
「サラっと言わないで下さいよノーラさん…」
とんでもない金額になったものだ。正直使い道が分からない。アイザックさんに前もって寄付は受け付けないと言われているし、しばらくバンクに眠っておいてもらおうと思う。俺は金袋を確認し、路銀に足る分だけを受け取る事にした。
「えーっと、金貨5枚と銀貨20枚、それに大銅貨20枚下さい。残りはバンクに入れておいてください」
「了解しました!―――はい確認してね!」
ジャラっと目の前に出された硬貨を金袋にしまい、ようやく本題に入る。
「ノーラさん、今日―――」
「ちょっと待ってジン君! 覚悟するから! ……どうぞっ」
「ははっ、ノーラさんは楽しい方ですね。今日、帝都を出て西へ向かいます。短い間でしたが、お世話になりました」
深々と頭を下げ、感謝を述べる。
「やっぱりなぁ…そんな気がしてたんだよね。ちなみに行き先は決めてるの?」
「はい。とりあえずグレイ山脈に接するドッキアを目指します。その後の道中は決めていませんが、ミトレス連邦に入るつもりです」
「そっかぁ、長い旅になるねぇ。お姉さんは死ぬほど寂しいです。また帰ってきてくれますか?」
「もちろんですよ。いつになるかは分かりませんが、死ぬつもりはありません」
「西は魔物も多いし…っ、同盟国のピレウス王国はミトレスの一国と戦争中って、これは伝えたよね…ぐすっ…どうか元気で…身体に気を付けて、行ってらっしゃい!」
ベッドの上で見た涙とは違って、最後は笑顔で見送ってくれるノーラさん。
彼女はギルドの情報網を使い、世界の情勢を色々教えてくれていた、帝都で一番お世話になった人だ。俺との別れをこんなにも惜しんでくれている。
色々心配もかけたが、また無事にここに帰って来る事でこの恩に報いるとしよう。
「はい! 行ってきます!」
俺は笑顔でアルバニア冒険者ギルドを出発し、次なる目的地、ドッキアへ向かう。
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