第50話 温泉と清酒

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第50話 温泉と清酒

「あ゛~いい湯だぁ~」  帝都を出発して1か月が経つ。俺は森の街道からかなり外れた、深森の温泉に浸かっていた。  数時間前、街道を歩いているとかすかな匂いに足を止めた。気になったので匂いを追ってみると、岩の間からチョロチョロと水が出ており、さらに湯気が立っていた。もしやと思い、かなり熱かったが口にして見ると、案の定温泉だったのだ。  俺は即決で岩の下に流れる小川を地魔法で広げて穴を掘り、近くの石を集めて囲いながら、湯が溜まるのを辛抱強く待った。そして、ついに浸かれる程度に溜まったので存分に湯を味わっているのだ。 「まさか森の中で湯治が出来るとは…旅の疲れも吹き飛ぶというものだ…」  湯の出所に浸していた瓶を引き寄せ、小さな盃に注ぎグイッと一飲み。温められた酒の風味が鼻を通り抜け、喉を熱くする。 「はぁぁぁ、うまい…」  この酒はスルト村にもマイルズにも無かった、帝都の酒店で店主の勧めで購入したものである。  東大陸の極東にある地域でのみ採れる材料を使った酒という事で、1瓶大銀貨1枚という高級酒だったが悔いはない。  なぜなら味わってみると前世の酒にどことなく似ていたから。前世で祝い日に飲んでいた白酒よりもさらに透き通っており、店主曰く清酒と言うらしい。 「酒も食事も圧倒的に前世よりも充実しているな―――うむ、いい」  温泉に清酒、最高の組み合わせだ。目的地のドッキアまでまだかかる。わざと依頼を受けずにゆるりと旅をしているのだ。ここに2、3日の滞在決定。こういう日もあっていい。  大陸はクテシフォン山脈を中心に西と東で気候が違う。西大陸は西に行けば行くほど寒くなり、東大陸は東に行けば行くほど暑くなる。  つまり、大陸中央の地域に位置する帝都やマイルズは非常に過ごしやすい気候だが、西大陸西部は寒く、極西ともなると氷雪の世界らしい。  深森の中とは言え、こういう場所で温泉を発見できたのは非常に運がよかった。  のんびりと湯を堪能していると、探知魔法(サーチ)に魔力反応が4つ。すぐさま遠視魔法(ディヴィジョン)に切り替えると、アッシュスコーピオン1匹と人間の魔力がかかった。恐らく戦っているのだろう。  アッシュスコーピオンは毒攻を持ち、その一撃には気を付けねばならないが正直もう俺の敵ではない。 「どなたか存じませんが頑張ってください…ここで応援しております」  俺はそう呟き、目を瞑った。
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