第50話 温泉と清酒

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「あれ? 近づいてくる?」  先程からチラチラと俺の遠視魔法(ディヴィジョン)に掛かっていた3人と1匹は、徐々にこちらに近づきつつある。  本当に勘弁して下さい。まさか魔獣を擦り付ける気じゃ無いだろうな。  ――!――!!――!?  やはり叫ぶ声が聞こえてくる。ゆっくり浸かりたかったのに… 「出たっ! なんだか分からないけど湯が溜まってるみたいよ! 大きな岩もある! レオっ、オルガナ! 早や―――ええっ! ひ、人!?」 「ミコトちゃん! レオ君早く!」 「うぉぉぉぉ!」  ミコトと呼ばれた人が最初にここに辿り着き、続いて2人が俺の湯治場に闖入(ちんにゅう)してくる。 「あなた何してるの!?」 「なんでこんな所に人が! なんてこった! すまないそこの人っ! 魔獣が来る! 逃げてくれ!」 「レオ君っ! 危ない!」  ドガァン! 『キシキシキシキシ!』  とうとう魔獣も到着してしまった。若干湯気の多さに警戒していたが、(エサ)が追加されて構わず突っ込んでくるようだ。俺の静かな湯治の時間を侵すとは!  俺はゆっくりと風呂縁に立ち、アッシュスコーピオンを睨みつける。遠視魔法(ディヴィジョン)で広げている無属性魔法を前方に集約し、相手を一刀に伏すイメージを持って魔力を爆発させる。 「――竜の威圧(失せろ)っ!」  ズンッ! 「うわっ!」 「ひぃっ!?」 「きゃぁ!」 『キキキッ!? キシキシ…』  目に見えない圧倒的な魔力が周囲を圧する。3匹の餌に1匹追加だと(はや)っていたアッシュスコーピオンは、圧の瞬間にビクッと身体を硬直させ、そのまま後ずさりして森に消えていった。  3人には悪い事をしたかな? すまない。まだピンポイントで対象を選べないんだ。どうしても集約範囲内を無差別に威圧してしまう。  俺が最近の魔獣の多さに辟易して、戦わずに済む方法を模索した結果編み出した魔法である。ダンジョンの魔素の濃さと、黒王竜(ティアマット)の圧倒的な存在感をイメージの中心に置き、ただ威圧するだけの魔法。  どちらかと言えば固有技(スキル)に近いかもしれない。  弱肉強食の世界で生きる、俺より弱い魔獣に非常に効果を発揮する一方、自我を持たない魔物には効かない。最弱クラスのゴブリンにすら効かない。それでも戦いの数は相当減って、旅は楽なものになった。
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