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「ジン君、露天風呂ってつまりジン君みたいに…その…外で服を脱ぐって事よね?」
やっぱり見たんじゃないか。オルガナはアレなのか?
「そうだね。ああでも、布を巻いて入る事もあるよ。今日は入る前に魔獣を引っ張って来られるなんて、流石に予想できなかったんだ。許してくれ」
「ちがうの! 責めてるわけじゃ無いのっ!」
「まぁオルガナが言いたいことは分かるよ。私もちょっと興味あるもん」
「まぁ、好きにするといいよ…レオー、腹減ってないかー?」
「減ってる~…」
間延びした気のない返事が返ってくる。この感じは風呂の気持ちよさにやられている証拠だ。
俺は話しながら食事にありつこうとしていた。流石に3人を放っておいて1人で食うのは無神経なので、一応声を掛けておく。
「2人はどう?」
「え? いいよ。持ってるし」
「ありがとう、私も大丈夫」
それもそうだなと、俺はレオと2人分の一角兎の肉と肉焼き網を収納魔法から取り出す。多分これも珍しい魔法だろうからまた驚かせるんだろうが、正直コソコソなんてやってられない。
――――えええっ!? 何今の!?
案の定、収納魔法の質問攻めにあうが適当に答えてやり過ごす。その間も俺は肉焼き作業を粛々と進めていると、いつの間にか2人が一角兎の肉に釘付けになっていた。
そうなるだろう、と予想はしていた。この3人は明らかに食用の獲物を所持していない。持ち歩くのが大変だから、干し肉かパン等の保存食で過ごして来たんだろう。今、目の前で焼かれている肉には香辛料も使ってるから、香りと見た目の相乗効果で美味そうに見える。実際、保存食とは比べ物にならないくらい美味い。
分かるよ…俺も帝都に着くまでそうだった。そう、取り置きさえあれば、いつでも新鮮な食材にありつけるという最強の魔法が収納魔法なのだから。
「あ゛~、めちゃくちゃ気持ちよかった…ジンっ!露天風呂、マジで最高だったわ! ありがとう!」
「そうだろうそうだろう。レオは生きる喜びを一つ見つけたな」
「俺もこれから風呂にこだわる事にするわ! それにしてもこの肉のいい匂い! と…これは香辛料の匂い!? もしかして、俺の分もあったりする?」
「ああ、ちょうど焼けたとこ…ろ…」
ミコトとオルガナの視線が痛い。なんで2人して涙目なの?
俺は黙って露天風呂の横に土魔法で壁を作ってやると、突如現れた壁に驚きつつも、2人は露天風呂に走っていった。
「肉が焼けるまでには出て来てくれよー」
――――はい!
いい返事だ。
収納魔法からもう2人分の肉を取り出し焼く準備に入ろうとすると、レオが神妙な面持ちで姿勢を正し頭を下げた。
「助けてもらった上に風呂とメシまでもらって。本当にありがとう。今は金ないけど、リーダーとして絶対に恩は返す。約束する」
「頭を上げてくれ。別に感謝されたくてやってる訳じゃない。正直に言うと、同年代の冒険者と話すのはレオ達が初めてで、俺もこう見えて嬉しいんだ。対価は貰ってるから気にすることは無いよ」
「はははっ! なんだよそれっ! 俺らなんかで良ければいくらでも話し相手になるさ!」
レオが『恥ずかしい事言うなよな』と言って、俺の肩をバンバンと叩く。
そうか…今のは同年代には重すぎる表現なのか。俺ももう少し肩の力を抜かないとな。正直言うと、まだちょっと緊張してたりして。
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