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「理由は2つ。1つは全員力が足りない。さっきみたいな魔獣や魔物は、俺の行き先には普通に出てくるし、あれ以上のヤツらを相手にする事もままある。2つ目は君らの警戒心の無さ。会ったばかりの俺を信用する意味が分からない。例えば、さっき食った肉に俺が毒を仕込んでいたら、君らは全員死んでいた。これは逆も然りだ」
3人は何も言えなくなり、沈黙が場を包む。俺も言い過ぎたかと思ったが、生死と隣り合わせの冒険者は決して甘くはない。そんな覚悟が見えない彼らと共に行動する事は出来ないのが現実だ。そう思いながらも、辛うじてのフォローをしても罰は当たらないだろう。
「まぁ、あれだ。厳しい事を言ったが、わざわざ俺の危険な旅についてくる必要はない。折角同郷の仲間3人で冒険者やれてるんだ、危険を冒さずコツコツやっていくことをお勧めするよ」
「なら…」
沈黙を破って、レオが声を上げた。
「それなら頼む! 役に立つように鍛えてくれ! 俺は仲良しごっこがしたくて冒険者になったんじゃない!」
「あたしも同じよ! それにジンはさっき警戒心って言ったけど、それなら魔獣を追い払った後、私達も追い払えばよかったじゃない! でもそうせずに、ここまでしてくれた!」
「もう私達はジン君を信用してしまっています! もし私達を信用できないと思ったら、すぐ切り捨ててくれてもいいの!」
3人の目は本気だ。
――――まぁ、ここで諦めるような彼らでは無いとは思っていた。俺は前世の記憶も相まって冒険者の道を突き進んだが、結局彼らも同じ歳で危険な冒険者を選んだんだ。
「お願いジン! 私はまだまだ弱いけど、命の恩人に恩も返さずにこのまま別れるなんてしたく無いの!」
「私はレオ君とミコトちゃんにくっ付いて冒険者になっただけの人間だけど、初めて強くなりたいと本気で思いました! だからお願いします!」
「ミコト…オルガナ…っ頼む! ジン!」
本気で頭を下げる3人を見て、4年前、エドガーさんとオプトさんに勝つ為に、本人達に教えを乞うたのを思い出していた。それにコーデリアさんとボルツさんも、俺が自分の子でも無いにも関わらず、何の対価も無しに俺を鍛えてくれたんだ。母上は、受けた恩は本人だけじゃなく、多くの人にも分け与えられるような人間になれと仰っていた。
今がその時なんだろう。
「そこまで言うなら、わかったよ」
ぱっと3人の表情が明るくなるが、次は父上の言葉も思い出す。
ただし、と付け加え続ける。
「条件がある。俺もまだ人から教わってばかりの人間なんだ。助言程度ならあるけど、人にちゃんと教えた事はないんだ。そこを分かってもらった上で、1週間で君らを追いかけたアッシュスコーピオンを3人だけで倒して欲しい」
「い、一週間で!?」
「そんなっ!!」
「………」
「すまないが、俺は俺以外の基準をよく知らない。無理だと思ったなら諦めてくれ」
「くっ、やる! やってやる!」
「そうよ! やるしかないわ!」
「倒せなくても、教えてもらえる事は役に立ちますから!」
『そこは倒すっていう所なんだよ』とオルガナは2人にクシャクシャにされている。
責任感の強いレオ
物怖じしないミコト
マイペースなオルガナ
果たしてどうなる事やら…
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