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父と子の壮絶な打ち合いのように見えていたが、ジンは先程から受けてばかりで攻撃する気配がない。
「ジンのやつ、すごい連続回避だが攻撃する気配が無いな。何かを狙ってるのか?」
「どうだろうな。回避に専念して体力を回復してるのかもしれない」
「なるほどそうかもな。明らかに出血の量が多いのはロンだ。いくら体力があるからと言っても、あれじゃジンより先にバテてもおかしくない。ロンが倒れるのを待っている可能性もあるか。しかしロンのヤツも、いくら息子の為とは言え無茶苦茶しやがる」
するとロンが連撃を止め、エドガーとロンが何度も見た事がある固有技の構えに入った。
「あれをやるのか! どっちも死んじまうぞ!」
ゴギャン!
周囲に凄まじい衝撃と粉塵が広がり、剣戟の音は止み、辺りは静寂に包まれた。
視界が晴れ、現れた二人は満身創痍だった。
ロンは剣を支えに片膝を突いて血を吐き、ジンは折れた両刀を握りながら両膝を突いて天を仰いだまま、ピクリとも動かない。
この状況を見てジェシカが聖魔法の発動に入り、コーデリアはジェシカに合わせ、誰よりも早く親子に駆け寄る。続いてエドガー、オプトが続き、アリアも必死に駆け寄ろうとするが、全員がロンの言葉に動きを止められる。
「まだ、ゴフッ…背負ってる、みたいだが…はぁっ、はぁっ…そいつも折って、やろう」
「うげて…だぢま、す」
「馬鹿かお前らっ! もうやめろっ! 死んじまう!」
「ロンっ! ジンっ!」
エドガーとオプトは立ち止まると同時にそう叫んで止めようとするが、親子には届かない。
ジンが背中の木刀に手を伸ばそうとしているが、届かずに顔を歪めていた。
これを見たコーデリアがジンに声をかける。
「ジン。武器が無くなったのならもう戦えません。なのでこの勝負は―――」
途中までコーデリアが言いかけたところで、ジンは咆哮を上げて体を捻り、左腕を背中の木刀に回す。
ブチッ――――
筋が切れる嫌な音を立て、木刀と左腕が地に落ちた。
「なっ、なんてことを! ジンっ!」
「ジンさまの…う、腕が…いやぁぁぁぁっ!」
「あなたっ! ジン!」
だが、ジンは事も無げに右腕で木刀を拾うとフラフラと立ち上がり、ロンを迎え撃とうと構える。
コーデリアとアリアの悲鳴が響く。
そして夫と息子の明らかな致命傷を見て、これまで自分を抑えていたジェシカがとうとう声を上げたが、決着はついていないと言わんばかりにロンがジンに語りかける。
「ジン…ほ、本当の戦いは、はぁっ…ここ、からだ。絶対に諦めるなっ! ぶっ! ごぼっ!」
「ロンさん…っ!?」
コーデリアがロンの方を見ると、胸の傷は受けた時よりも大きく開き、肉が割れ、胸骨が見えていた。ジェシカは崩れそうになる脚を必死に支え、夫の言葉通りに身を引いた。泣き叫ぶアリアをコーデリアは抱き上げ、泣く泣く2人との距離をとった。
エドガーとオプトはジェシカが下がっていくのを歯を食いしばりながら見届け、自身らもその場を離れた。
(ありえねぇ! 馬鹿どもがっ!)
(ジェシカ…止めてくれよっ!)
強く握りしめたエドガーの拳は血が流れ、オプトは地面を叩き、拳を赤く染めていた。他の村人や騎士団員達も、もう目を反らす者はいない。涙を流しながら最後まで父と子の勝負を見届ける。
「うお゛ああああっ! 行くぞジン!」
「はい゛っ!」
ロンの咆哮にジンが応え、最後の激突が始まる。
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