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「生まれましたよ、女の子です」
産婆さんが赤ん坊を取り上げ、お尻をペンペンと叩く。
「んぎゃ、んぎゃー」と元気よく泣き始めた。
へその緒を切ると、産湯にゆっくりとつかせ、きれいに洗い流していた。
「お母さん、名前は何にしますか?」
産婆さんの問いかけに、初めての出産でだいぶ疲れていたかもしれないが、母親は笑顔で答えた。
「女の子だったら、名前は決めていたの。みんなを安らかな気持ちにしてくれる“花”にしようと」
濡れたからだをしっかりとふき、産着を着せ、お母さんの横に寝かせた。
「花ちゃん、お母さんですよ」
母親は子供に目をやると、優しい表情で頭を撫でた。
「……ありがとう、花」
私は知っている、彼女が生まれた瞬間を。
道端のサクラソウがきれいに咲く頃だった。
母親の名前は雪。
彼女が生まれた時はちょうど初雪がちらほらと吹いて、朝の静かな街並みを優しく包み込むようだった。
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