黒い涙

2/8
38人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
 「カチ、カチ」  マッチで線香に火を焚き付け、仏壇に供えた。  杉の香ばしい香りが、居間の空気を和ませた。  雪と花は、畳に正座して手を合わせ、静かに仏前を拝んでいた。 「お姉ちゃんはどんな子だったの?」  私は知っている、雪にもう一人の娘がいたことを。 「そうねえ、生まれてくることができなかったから、わからないけど、たぶん花みたいにとてもかわいい子だったと思うわ」  心配しなくていい、彼女はもう新しい種を大地に宿し、これから芽吹くところだよ。 「“花”はね、本当はお姉ちゃんにつける名前だったの。だから、女の子が生まれた時はうれしかった。あの子にできなかったことを、あなたにしてあげることができるって」 「それじゃあ、お姉ちゃんの分まで、私が生きてあげないといけないね」 「あなたは私の大切な娘、大人になるまで、ちゃんと育てるから心配しないで」
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!