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それから笑梨とオリバーはレッスンが終わったあと、少し話をするようになった。たわいもない話。オリバーは今日本に住んでいるらしい。
日本語がほとんどだったけど、せっかくだから練習しようと、オリバー「先生」の指南で時には英語で。オリバーはあの頃と変わらず快活で優しかった。
笑梨はオリバーにもう一度恋をしていた。
――僕は時々嘘をつきます。
パソコンを閉じ、最初のレッスンでのオリバーのあの言葉を思い出す。
「嘘をつく、か」
笑梨の絵を見て「夏みたい」と言ったオリバーに「消えないで」と言った笑梨に向かって確かに彼は言った。
――僕が? 消えないよ。エリの前から消えない。
それなのに十五年前、彼は消えた。
夏が過ぎ、秋が来て、もうすぐクリスマスの輝きが町を覆うだろうという季節に。
「遠くに行かなければいけなくなったんだ。ごめんね、エリ」
そして地球の反対側へと旅立った彼。
嘘つき――いなくならないと言ったじゃないか。
それでも笑梨はしばらくの間、オリバーと手紙のやり取りをした。
笑梨が朝起きる時間、オリバーはもうすぐ寝るのかと、ソファでココアを飲んでいる彼を思い浮かべた。夜ベッドに入るとき、朝を迎えトーストをくわえたオリバーが、きらきらと光る芝生の庭を学校へ駆けていく姿を思い浮かべた。
それが笑梨にとって、一度目の遠距離恋愛――。
でも次の、また次の夏がやってきたとき、手紙はいつしか届かなくなった。
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