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実家から戻ってきて少し経つと、とうとう俺の夏休みが明けた。
昼休みは前と変わらず、麻穂さんと2人で第二図書室で過ごす日々。
「――そういえばさ、麻穂さんこれ知ってる?」
俺が持ってきた一冊の本を差し出すと、隣の席に座っている麻穂さんが手元を覗き込んでくる。
変わった事があるなら、俺達のこの位置関係かもしれない。夏休み前は麻穂さんの向かい側が俺の定位置だったけど、恋人である今は麻穂さんの隣が俺の指定席だ。
「家族を作る……恋愛小説……? 割と年季が入ってますけど、どうしたんですか、これ」
「麻穂さんと実家に帰った時にさ、帰り際に父さんに渡されたんだよね」
「お父さんに?」
家に帰ったら開けるように――そう言って渡された小さな紙袋に入っていたこの本。一緒に入っていたメモによると、どうやら父さんが母さんにプロポーズした時に渡した本らしい。
流石に俺は、その時が来たら言葉で伝えたいけど。
「……まあ、お守り代わりにはなりそうかな」
「お守り?」
話の見えない麻穂さんが、不思議そうに俺を見てくる。
「いつかこの本を大事な言葉と一緒に麻穂さんにあげるからさ、その時はちゃんと受け取ってね」
「……? はい」
訳が分からないという顔をしながらも、頷いてくれた麻穂さんを抱き上げて膝の上に乗せる。
「えっ……ちょっと……!」
「言質は取ったからね」
「それより離してください……! ここ図書室ですよっ」
「そうだよ。図書室だよ。だから」
「ちょ……何でそんなに顔近付けて……っ」
「図書室では静かにしないと。でしょ?」
そう言って、また何かを言おうと開きかけた麻穂さんの唇を塞いで、何度も重ね合わせる。
まだ暖かい日差しが差し込む図書室内には、2人の吐息だけが微かに響いていた――。
===END===
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