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少し早足で待ち合わせ場所に行くと、まだ麻穂さんは来ていないようでホッと息を吐いた。
「セーフ」
何となくだけど、麻穂さんに待たせるより待つ方がいい。
時計を見ると、まだ約束の時間まで15分ぐらいある。
麻穂さんどのくらいで来るかな。彼女の事だから、時間より少し早く来るような気はするけど。
家から急いで来たせいで汗ばんでいる体を冷ましたくて、服の胸元をパタパタしてみる。でも、すでに気温が上昇しているからか、汗が引く気配は一切無い。
「今日も暑いなー……」
麻穂さん、暑いの苦手そうだよな。
今日のデート、遊園地とかも一瞬考えたけど、カフェにして正解だった気がする。この暑さの中遊園地とか、俺もヤバそう。
「ん……?」
待ち合わせ場所に着いて少し経った頃、離れた場所できょろきょろと何かを探している女性がふと目に入った。
背格好は麻穂さんにそっくり。でも、眼鏡をかけていないし、髪型も違う。
違う人か?でも、あの黒髪……雰囲気も麻穂さんっぽいよな。
声をかけるか迷いながらじっと見つめていると、その女性と視線が重なる。その瞬間、彼女の表情が安堵したものに変化するのを見て、俺はその女性が麻穂さんだと確信した。
「ごめんなさい、待たせてしまって」
「いや……それは全然いいんだけど……」
いつもと違う彼女に戸惑っていると、麻穂さんが言い難そうに口を開いた。
「すみません。昨夜電話の後に、今日のことが姉にバレてしまって……デートに行くならおしゃれしなさい!って、こんなことに……元に戻していたら待ち合わせの時間に遅れそうだったので、このまま来てしまって……驚きましたよね」
驚いたかと言われたら驚いた。
麻穂さんにお姉さんがいたことにも、今目の前にいる彼女がいつもと違う事にも。
大学で見る時はいつも化粧っ気が殆どなかったのに、今日はナチュラルだけどちゃんとメイクしているからか、年相応の女性に見える。
服も淡いベージュのワンピースで、いつもは隠されてる腕とか足が出てるのが、妙に落ち着かないっていうか……見ちゃいけないものを見てる気分、みたいな?
髪もいつもは下ろしてるのに、暑くないようにかアップにされている。
……お姉さん、ナイス過ぎるだろ。
「滅茶苦茶可愛い……」
小声で漏れた本音は麻穂さんにも聞こえていたらしく、頬が赤くなっている気がする。
それにしても、さっきからチラチラ感じる視線がうっとおしい。その視線を向けられてるのが彼女なのも腹が立つ。
デート仕様の可愛い麻穂さんを見ていいのは俺だけのはずだ。だって、俺とのデートなんだし。
「そろそろ店行こうか。外だと暑いし」
「そうですね」
頷いた麻穂さんの手をサッと取って、強くない力で握りしめる。
「あの……」
「デートだし、これぐらいいいでしょ? だってご褒美だし」
満面の笑顔で俺がそう言うと、麻穂さんは戸惑いつつも諦めたように頷いてくれた。
それを見て、さっきから視線を寄越していた男どもに繋いだ手を見せつけるようにしながら歩き始める。
さっさと店に行こう。
この煩わしい視線から彼女を隠すようにして、急ぎ足でカフェに向かった。
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