2話

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「また来たんですか?」 呆れた様な麻穂さんの声に、思わず心の中でムッとしてしまう。 「何でそんなふうに言うの」 「ここ最近毎日お昼休みに来てませんか?」 「ダメなの?」 確かに彼女が言うように、俺はあの日から毎日のようにここ――第二図書室に来ていた。 麻穂さんは、昼休みに第二図書室で本を読むのが日課らしい。それを知って、合わせるように俺もここに通うようになった。そうなってから、多分もう2週間は過ぎてる。 「駄目というか……ストールだってもう返してもらいましたし、他にやることもあるでしょうに」 「他にやること? 例えば?」 「来週定期試験だから勉強するとか、女の子と過ごす……とか?」 「生憎昼休みにまで勉強しないといけないほど頭悪くないし、最近は女の子に誘われても断ってるから」 「……意外ですね」 本当に意外そうに言うから、今度は見て分かるようにムッとすると、麻穂さんが少しだけ慌てたように「ごめんなさい」と謝ってくれた。 最初の出会いが出会いだったから、勉強もせずにただチャラチャラ遊んでる大学生ぐらいに思ってるのかもしれないけど、一応やることはちゃんとやっているし、成績だってほとんど優で可以下は1つもない。 「わりと成績いい方なんだからね、俺」 「え? ……あ、私が意外だと言ったのはそっちじゃなくて」 「え?」 そっちじゃないってことは…… 「女の子の誘いを断ってるのが意外ってこと?」 「はい」 なんだ、そっちか。……いや、そっちだとしても良くはないだろ。 「何で意外なの」 「それは……」 言い難そうに口籠る姿に、見せつけるように大きな溜め息を吐く。 「確かにね、麻穂さんからしたら、ここであんなことしようとした奴がそんな事言っても信じられないのかもしれないけどさー……」 「それはまあ……はい。でも、どうして断ってるんですか?」 「んー……どうして、か。なんていうんだろ……そういう気分じゃなくなったって感じ?」 「気分じゃなくなった?」 「そう」 正直自分でもよく分からないけど、女の子に誘われても興味が持てなくなって全部断ってる。前なら喜んで誘いに乗っていたような相手でも、全然そんな気分にならない。 もしかしたら、遊び過ぎてこの年で枯れたんじゃ……?!なんて変な心配もしたけど、そっちは全然大丈夫だった。普通にムラムラはするし、相棒も元気だ。 だから、余計に分からない。 「あ。そういえば、俺がこうなったのあの日からだ」 「あの日?」 「ここで麻穂さんに怒られた日」 あの日から全部断ってるから誰ともしてない。2週間も女の子と触れ合ってないとか、最近の俺からしたら結構珍しいかもしれない。 「そっかあ、麻穂さんに怒られたからかあ」 「人のせいにしないで下さい。そもそもここであんなことしようとしたのが悪いんですから」 「分かってるよ。冗談だってば。そんな怒らないでよ」 自分のせいにされたと思ってか、麻穂さんの表情がムッとしているのが分かって慌てて弁解する。 麻穂さんのせいとか本気で思ってるわけない。逆ギレするようなことでもないし。 「でも、本当なんでなんだろ。自分で自分の事が分からないってちょっと気持ち悪いよなあ」 「何か気持ちの変化が起こる様な出来事があったとかじゃ?」 「んー……」 気持ちが変わるような出来事、か。 「――やっぱり麻穂さんだ」 「どうしてそこで私が出てくるんですか」 「だって、最近麻穂さんといるのが一番楽しいし」 「え……?」 一瞬の間を置いて、麻穂さんの顔がじわじわと赤くなっていくのが分かった。 「もしかして、麻穂さん照れてる? そんなんで照れるとか可愛いなあ」 「なっ……揶揄わないで下さいっ」 「揶揄ってません。可愛いって思ったのも本当だし、麻穂さんといるのが楽しいっていうのも本当」 全然信用してないって顔で睨んでくる麻穂さんに苦笑する。 「なんていうかさ、居心地いいんだよね。麻穂さんと一緒にいるこの空間が」 「居心地……?」 「そう。本読みながらコロコロ表情変える麻穂さん見てるの楽しいし、そのままウトウトするのが心地いいんだ。癒し、みたいな? だからさ――これからも昼休みにここ来ていい?」 「まあ……読書の邪魔をしないのであれば……」 「やった」 また来たのかなんて言われたから、本気でうざがられてるのかもって心配だったけど、そういうわけでもないっぽいからホッとした。 ホッとしたら眠くなってきたな…… 「ちょっと寝ようかな」 「次の時間講義ないんですか?」 「次は空きだから大丈夫……ふわ~……」 「寝る前にアラームかけてくださいね。私は少ししたら出るので」 そっか、もう行っちゃうのか…… 欠伸をしながらスマホのアラームをセットしてテーブルに突っ伏すと、昼寝用に持って来てそのまま置いてあった小さいブランケットを麻穂さんがかけてくれた。 「おやすみなさい」 「ん……おやす……み…………」 いい夢見れそう――そう思っている間に、いつの間にか眠りに就いていた。
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