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なんだかドッと疲れた気がしてそのまま家に帰ろうと思ったけど、レポートに使う資料がいくつか必要なことに気付いて図書館に寄ることにした。
麻穂さんと知り合ってから、メインの図書館に来るのは初めてだ。
麻穂さんいるかなって受付を見たけど、彼女の姿はない。どうせなら働いてる麻穂さんを見たかったんだけどな。
仕方なく資料のある場所を検索して、番号と記号をメモして探しに行く。
この番号から察するに、結構奥の方だろうな。棚を探すだけで時間かかりそうだ。
「あれ……?」
ズンズン進んでいくと、目当ての棚は本当に奥で。やっと見つかったとホッとしながら棚と棚の間を覗くと、見覚えのある人が踏み台に乗って本を戻す作業の真っ最中だった。
それを見て、ちょっとした悪戯心が湧く。
俺だと気付かれないように、棚を見るフリをしながら背中を向けてゆっくり後ろに回り込んでいく。
人の気配には気付いているんだろうけど、後ろの棚を見ていると思っているからか、こちらを気にする様子はない。
「……まーほさん」
「―――っっ!!!」
耳元で名前を囁くように呼ぶと、声にならない悲鳴を上げながら俺の方を振り向いた。瞬間、麻穂さんの体がグラっと傾く。
「っぶね……!」
落ちる前に何とか抱き留めて腕の中の彼女を見ると、何が起こったのか分からない顔で放心状態になっている。
驚き過ぎて、踏み台から足が滑り落ちたみたいだ。
「ごめん。そんなに驚くと思ってなくて……足捻ったりしてない?」
図書館だからと小声で聞いてみるけど、一向に返事がない。
「麻穂さん? 大丈夫?」
「―――あ、あなたって人は……! むぐっ……!」
「しー! 麻穂さん声大きいよ」
普通に大きな声を出そうとするから、慌てて彼女の口を手で塞いで注意すると、ハッとした麻穂さんが小さく何度も頷いている。ここがどこか思い出したらしい様子を見て手を離してあげると、一度大きく息を吸い込んで吐き出した。
「はぁ……あなたは本当に、何てことをするんですか……」
「麻穂さんがいたから、ちょっと嬉しくなっちゃって。ごめんなさい……足大丈夫?」
「足はどうもないですけど……」
「けど?」
「そろそろ離してもらえるとありがたいのですが……」
離れようとする麻穂さんの動きを封じるように腕に力を込める。
「やだ」
「やだって言われても……」
「だって、この方が落ち着く」
俺の腕の中にすっぽりと納まってるし、丁度いい抱き心地というか。
「抱き枕にしたい感じ」
「ふざけてないで離して下さい。仕事終わらせないと」
「ちぇ……しょうがない、今日の所は解放してあげる」
「今日の所はって……」
戸惑った顔で見上げてくる麻穂さんに笑顔を返しながら解放してあげると、すぐに離れていってしまう。
麻穂さんの温もりが無くなった瞬間、夏だというのに寒さを感じたような気がした。
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