3話

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「そういえば、何か用事があってここに来たんじゃないんですか?」 「あ、そうそう。これ探しててさ。この棚にあるはずなんだけど……」 メモをした紙を見せると、麻穂さんがざっと棚に目を走らせて一冊の本を手に取った。 「これですね」 「……本当だ。凄いね、こんなに本いっぱいあるのに」 一瞬で見つけてくれたことに感心していると、つい最近私がこの棚に戻したから、と何でもない事のように言っている。 「何に使うんですか? その本」 「レポート。試験前だっていうのにさ。本当あの教授鬼なんだよな」 「教授には教授なりの考えがあるんでしょう。学生の本分は勉強ですからね。レポート頑張ってください」 「はーい……」 大人が子供を諭すみたいな言い方をされて、ちょっと不貞腐れ気味に返事をすると、それを聞いた麻穂さんが苦笑している。 もしかして、子供扱いされてんのかな?確かに麻穂さんからしたら年下だけど、なんか面白くない。 「……あ。いいこと思いついた」 急に笑顔になった俺を不思議そうに見ている麻穂さんとの距離をグッと縮める。驚いたのか近付いた分だけ彼女が後退ったけど、後ろには残念ながら本棚があるからすぐに行き止まりだ。 「あ、あの……近いんですけど……?」 「そりゃ近付いたもん」 訳が分からないとでも言いたげな表情で俺を見続ける麻穂さんに、さっき思いついたことをお願いしてみる。 「ねえ、麻穂さん。俺ご褒美が欲しい」 「ご褒美……?」 「そう。レポートも試験も頑張るからさ、終わったらご褒美ちょうだい?」 「ご褒美って言われても、何をあげればいいのか……」 「夏休みに俺とデートしよ」 「はい……?」 あまりにも意外な事を言われたのか、きょとんとした顔になっている。この顔を見るの2回目だけど、ちょっと幼く見えて可愛いかも。 「えっと……何で私と?」 「したいから」 「デートなら他の女の子とした方が……」 困惑している麻穂さんに、軽く溜め息を吐きながら説明をしてあげる。 「だってさ、麻穂さん俺の事子供扱いしてるじゃん。俺だって一応成人してるし、ちゃんと大人の男だってことを分かってもらいたいからさ。それにはデートするのが一番いいかなって」 「子供扱いしてるつもりはないんですが……」 「とにかく、ご褒美にデートね。これは決定だから」 「そんな勝手な……」 反論しようとする麻穂さんの耳に唇を近付ける。 「麻穂さんとのご褒美デート、滅茶苦茶楽しみにしてるから。忘れないでね」 「っ……」 耳元で囁くように伝えてから顔を覗き込むと、耳を抑えながら真っ赤な顔で俺を睨むように見つめている。どうやら耳は弱点らしい。覚えとこ。 全然怖くない表情に頬が緩んで、思わず顔を近付けそうになる。 ハッとして慌てて離れた俺を、今度は怪訝そうに見つめてくる麻穂さん。その様子から、俺が今何をしようとしたのかはバレてなさそうだ。 「じゃあ俺、レポートしなきゃだし帰るね。約束忘れないでよ」 ちょっとだけ早口に告げて、どことなく急ぎ足で図書館を後にする。 学校の敷地から出た所で漸く足を止めると、さっきの事が蘇ってきた。 「俺……さっき麻穂さんにキスしようとしてたよな……」 自分の行動に一番自分が驚いて動揺している。別にキスが初めてなわけでもないのに。 ただ、今までは意識してするものだったし、大体自分からキスをすることなんて無かった。キスなんてしなくても身体を繋げることは出来る。だから、強請られた時だけしかしない。 でもさっきは、無意識に自分からしようとしてた。なんていうか……触れたくて仕方なくなった、みたいな? 「マジでどうした俺……」 ふと、さっき教室を出た後の会話を思い出した。 「俺、もしかして麻穂さんに惚れてる……?」 口に出した瞬間、一気に顔が熱くなってくる。熱でも出したみたいに体も熱くて、心臓がバクバクと煩い。 「マジ……?」 自分で自分の気持ちが信じられなくて、しばらくその場で呆然と佇んでいた。
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