ねぇ、先生。

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「人いねぇな。」 「だってもう終わって結構時間経つよ。みんな帰っちゃったんだよ」 「休みの日にコッソリ忍び込んだみたい」 悪戯っ子みたいに笑う加地くん。 確かに言われてみればそうかも。 「そうだね」 靴に履き替えて外に出ると、何だか急に寂しくなってきた。 ここにこうして制服で通うのは、ほんとに今日が最後なんだ。 隣を歩く加地くんが、制服を着るのも今日で最後。制服を着て手を繋いでここを歩くのは、最初で最後だ。 「咲良?」 もう少しで門を出るってところであたしが立ち止まったから、加地くんは不思議そうに振り返る。 出たら、ほんとに終わり。 そう思うと涙がジワリと滲んだけど、加地くんに見られないように振り返って校舎を見つめた。 「寂しいね、やっぱり」 楽しかったよ、すごく。 緊張して入学して、3年間なんてあっという間で。ずっと好きだった先生ともここで付き合えた。 たった3年だって言えばそうだけど、あたしにとってはすごく濃いものだった。
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