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棒人間は告発する
職員会議が終わったのは、18時過ぎだ。教頭が、議題ごとにいちいち総括したがったものだから、無駄に時間を食った。うんざりが顔に出ないように気を張っていたせいで、肩が凝ってしまった。グリグリと首を回しながら、職員室に戻る。椅子にドカッと腰を下ろした途端、膝が引き出しの底にガツンとぶつかった。
「痛てっ」
弾みで、積み上げていた提出物の一部がバサバサッと雪崩て、右隣の大橋先生の机に侵入してしまった。
「風間先生、はい、これ」
「すみません、ありがとうございます」
絵日記帳が5、6冊。大橋先生は苦笑いしながら渡してくれる。と、彼の手がピタと止まる。
「棒人間ですね」
たまたま開いたページを、彼はジッと見詰めている。覗き込むと、表情のない丸い頭部に棒状の胴体、そこから4本の棒が生えた記号みたいな人間が2体、机を挟んで向かい合っている。
「え? ああ、本当だ」
「ちょっと……読んでも?」
「構いませんけど……」
大橋先生は、4年1組の担任で、4年生の学年主任。俺より20歳は年上のベテラン教師だ。そんな彼が、真顔で久保田の絵日記を捲っている。
『これ、できるだけ早く読んでもらえませんか? お願いします!』
昼間の久保田の様子も引っかかる。机の上を整頓しながら、チラと大橋先生を盗み見ると、やはりと言った難しい顔をしていた。
「風間先生、これ、もう読みました?」
「え、いや、まだ……」
「今、見てもらえませんか」
なんだか分からないが、たかだか11ページだ。俺は頷いて、ページを捲った。
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