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「食べてみて」
言われるままにかぶりつくと、口の中にみずみずしくて甘い桃の味が広がる。
「うーん、美味しい」
そう言って奈々子はもう一かぶりする。
すると、桃を持つ奈緒子の左手から腕に桃の果汁が垂れていく。
ヒロトが奈緒子の左手を掴むと、唇を寄せて、腕にしたたる果汁を嘗めとった。
「あっ……」
一瞬の出来事に、奈緒子は息をのむ。
「奈緒子は甘いな……」
上目使いで言うと、奈緒子の桃を掴んでいる左手の指も丁寧に嘗めていく。驚いて桃を手放した隙を狙って、奈緒子を抱き寄せるとヒロトは彼女の唇を奪った。
「ーーんんっ」
何度も啄まれ、口の中を蹂躙するかのように味わわれると、芳醇な甘い香りと官能に奈緒子は次第に惑乱していく。いつもはしとやかな奈緒子が見せる新たな表情にヒロトはこらえきれず、
「もっと味合わせて」
そう言って奈緒子を横たえると、左手でワンピースの前ボタンを器用に外していく。ボタンを全部外すと、奈緒子を横に向かせて袖を抜いていく。耳から首へ、敏感なところを口づけらて、奈緒子は思わず声をあげる。
「ああっ……」
縁側のガラス戸が開いたままなのに、こんな声をあげた自分に思わず赤面してしまう。
「ヒロト、窓がーー」
奈緒子の言葉にヒロトが笑う。
「ここは誰も来ないから大丈夫。それよりも、もっと奈緒子のこと、よく見せて」
そう言うと、最後の下着を取った。ヒロトは想像でしかなかった奈緒子の身体をうっとりと眺めながら、胸から腰、下腹部へと愛おしそうに口づけていくと、彼女を傷つけないように少しずつ彼女の中に入った。
奈緒子が一瞬息をのんで、そして、痛みをこらえながらヒロトの背中を強く抱きしめた瞬間、彼の中に彼女を何よりも愛おしく思う気持ちが溢れてくる。
「奈緒子……」
言葉にならない気持ちがこめられた呼び声が奈緒子の心に染み込んでくる。そして、甘い芳香の中、お互いの熱に浮かされたように二人は身体を重ね合った。
冷蔵庫からよく冷えた白桃を取りだすと、奈緒子はナイフで皮を剥いて、フォークで食べられるように一口大にカットしていく。
今年は白桃の当たり年らしく、奈緒子が口に入れた白桃は糖度が高くて美味しい。そして、白桃の甘い香りは奈緒子の中にある5年前の記憶を呼び起こす。
天井の木目、軒先につるされた南部風鈴の涼しげな音、背中に触れるいぐさの感触、身体に感じた熱ーー
「ーー奈緒子、今いやらしいこと考えてただろ?」
物思いを中断されて、奈緒子は焦って言う。
「そんなことーー考えてない……」
ヒロトは皿にのった桃をつまんで口に入れる。そして、奈緒子の後ろに回ってくると、背中から抱き寄せる。
「いや、きっと同じ事を思い出していたと思うよ……」
赤くなった奈緒子が可愛くて、からかうようにいう。
「奈緒子は桃太郎って知ってる?」
「桃から生まれた桃太郎って、あの昔話のことでしょ?」
ヒロトはふふんと含み笑いをする。こういうときは、決まって奈緒子が知らない何かを知っている時だ。
「本当は桃から生まれたんじゃなくて、おばあさんから生まれたって話なんだ」
「え、それどういうこと?」
思わず後ろにいるヒロトの方に向き直す。
「おじいさんとおばあさんが川から流れてきた桃を食べて、若返った二人に子どもができたって話なんだよ」
奈緒子は初めて聞く話に半信半疑だ。
「いくらなんでも、それは冗談でしょ?」
「いや、そういう説もあるらしい。桃には若返りの効果があるらしいよ。でも、奈緒子にはまだ必要ないと思うけどーー」
ヒロトは奈緒子の中にいる新しい生命を慈しむように、お腹を優しく擦ると、奈緒子ごと抱きしめた。
白桃の季節になると思い出す、それは二人だけの甘い秘め事ーー
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