い、いやん……死に際にそれはない

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 本能寺の変を知っているだろうか?  これは織田信長の死に際の話。  もう本能寺に火を付けられてどうしようもない状態。  ワシ―ー信長は死を覚悟していた。  目の前には音を立てる炎と側近の森蘭丸の姿。 「もう無理じゃ。ワシはここで自害する」 「私も一緒に信長様と死なせてもらいます」 「蘭丸、お前は生きろ! そしていい男を探せ」  森蘭丸は女。  優秀な側近だった。  だが、一緒に死ぬわけにはいかん。  ワシが唯一愛した女じゃ。  蘭丸には生きてもらい、いい男と結ばれてほしい。  今までワシの世話などさせて悪かったと思っている。  でも、もうワシは終わりだ。  このタイミングで蘭丸がワシから離れるべきだろう。 「嫌です! 私には信長様しかいません」 「何をーー」 「なので、信長様が死ぬなら私も死にます。それにもう逃げ道など残っておりません」 「……」  蘭丸が言う通り火に包まれていて出口などない。  二人で死ぬことを選ぶしかないのか。 「信長様、私を近くに置いてくれてありがとうございました」 「こちらこそ感謝しておる」  そう言い、ワシは蘭丸を抱きしめる。  小さな体は柔らかくて、そして震えている。 「死ぬのが怖いか?」 「いいえ、信長様と一緒なら大丈夫です」 「そうか。ところで最後に何かワシに求めるものはあるか?」  この際だ。  ワシに出来ることなら、何でもやってあげたい。 「き、口づけがしたいです」 「乙女じゃの。いいだろう」  そんなことなら幾らでもしてやる。  ワシは目を閉じる蘭丸に口づけをする。 「……も、もう我慢できない!」 「どうした、蘭丸」 「信長様の全てが欲しい」 「なっ!」  ワシは驚いたが押し倒され、もう抵抗する気もなかった。 「最後じゃ、好きにすればいい」 「はい、信長様」  そう言うと、すぐに服を脱ぐ蘭丸。  初めて見る肌は傷だらけだった。  これでは生きていても男を落とすのは難しかったか。  そう思いながら、ワシは蘭丸に体を好き放題にさせる。  炎せいか、蘭丸のせいか、体が熱い。  蘭丸は既に下を脱ぎ…… 「ら、ららら、蘭丸? その下に付いている物は何じゃ!」 「これは男の証拠です」 「何、男の証拠だと! 蘭丸、お前……まさか!」 「な、何ですか?」 「もしかして男なのか?」 「はい。そうです。私は男です。そして信長様を愛してしまった罪な男なのです」 「はぁ? ちょ、蘭丸! や、やめろ!」 「好きにしろって!」 「いや、これは話が違う! 本当に止めろ!」  男と性行為だと。  織田信長の処女がまさか奪われるのか?  嘘だろ。ワシはそんな趣味は……。 「もう抵抗はできませんね! 私と信長様の二人っきりですから」 「クソっ! 力が……」  腰が抜けたのか。  もう体に力が入らない。 「作戦性行は作戦成功ですね」  ニヤと蘭丸が笑みを浮かべる。 「蘭丸。う、嘘だろ……」 「全て私の作戦です。全ては信長様と一つになるためですよ」  これにはワシも涙が零れる。  初めて『ワシが泣いた理由』。  それは蘭丸に裏切られたことではなく、男だった蘭丸に襲われたことであった。  ワシの最後がこんなことになるとは……。  こうして織田信長と森蘭丸は炎の海に呑まれて死んだ。  誰も黒幕が森蘭丸と知ることはなく……。 「信長様の全ては私のものです……ふふっ!」 「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!」
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