4.二人の距離はゼロ

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「渡瀬」  ちょうど校門を出ようとしていた渡瀬の背に声をかけ、走ってその隣に並ぶ。どうやら、それほど急いではいなかったようで、少し走っただけで渡瀬に追いついた。 「なによ、どうしたんだよ。わざわざ走ってきたの?」 「待てって言っただろうが」 「そうだったっけ?」 「ありがとうくらい、言わせろよ」  下尾の言葉に、渡瀬は立ち止まり驚いた顔をしていたが、ふっと口元を緩ませた。 「どういたしまして、つーか、俺は思ったまま言っただけだから、あとはフォローしといてくれよ」 「フォローすることなんて何もない。的確だった。さすがだ」 「褒めてもなんも出ないぞー」  ははっ、と楽しそうに笑う渡瀬に下尾は安心した。楠本に言ったように、噂なんて関係ない。渡瀬は渡瀬だ。同じように部活が終わった生徒が二人の横を通り過ぎていく。立ち止まっているのも不自然だな、と思うがすぐにじゃあ、と別れるのもなんだか名残惜しい気がしてしまう。 「おまえ、自分の小説進んでるのか」 「俺か」 「ああ、部活もあの調子なら、家で書くしかないんだろ」 「それはそうなんだが、正直、俺の家は妹と弟がいるから、家では落ち着いて書けなくてな」 「マジ? 間に合うのかよ」 「なんとかなるだろ」  今までも、家族の問題はあってもなんとか執筆時間を捻出してきた。最悪、夏休みになれば図書館にこもって書くのも悪くない。 「じゃあ、うちに来る?」 「おまえの家?」 「ああ。授業後でも夏休みでも、部活の後でいいから、うちに来いよ。うち母子家庭で、母親も帰り遅いし」 「いいのか?」 「あと、無修正の洋モノある」 「それはいらん……」 「いらんのか」  最後は冗談か、本当か、わからないが、家に来いと言ってくれたのは、原稿のことを心配してくれてのことだろう。なんだか今日は助けられてばかりだ。
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