1.最悪な出会い

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「渡瀬って、あの渡瀬さんですよね」  廊下に出た途端、楠本が尋ねた。二年生にまでその名が轟いているとは、さすが有名人だけある。 「ああ、その渡瀬だ」 「文芸部なんてイメージどこにもないですね……」 「そうだな」  同じ三年生とはいえ、下尾は就職クラスで、渡瀬は進学クラスなので、まったく接点がなく、当然話をしたこともない。ただ渡瀬が校内で有名なので、下尾が一方的に知っているというだけだ。 「あの、よければ僕が行きましょうか?」 「楠本が?」 「なんか、噂通りの人なら、部長とは合わなさそうだなって思って……」 「そりゃ俺は女の噂とか無縁だからな」 「いえっ、そういうわけじゃ……! 部長は全然違いますよ! 男が憧れる男っていうか、良き先輩って感じで……」  自虐的な反応でからかっただけのつもりだったが、楠本は予想以上に慌てだした。 「冗談だ。大丈夫、まずは話をしてみる」 「あの、本当にそういう意味じゃないので」 「わかってるよ」  ぽん、と楠本の肩をたたくとまだ言い足りないのか、口をもごもごさせている。 「さっそくこれから屋上行ってくる。すんなり出してくれるとは思わないが」 「お願いします」  じゃあ、と階段に向かう下尾を、楠本はいつまでも心配そうな顔で見つめていた。
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