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分かってない その3-1
「うーん、このスウェット、ちょっと首のとこ伸びてきたな」
新しいの買うように言わなきゃ。
そんなことを考えながら洗濯物を畳んでいく。右に自分の衣服、左にパパの衣服。
洗濯は私の仕事だ。洗って、干して、畳んで、アイロン。
ちなみに掃除全般はパパの仕事で、料理とお風呂掃除はその時その時できる方がするのが我が家のルール。
自分の下着を畳みながら、思わず小さな笑いが突いて出る。
あれっていつのことだっただろう?
中学二年とかそれくらいかな。
"香凛、お前、そろそろ別々にした方が良いんじゃないか"
パパが、パパからそう言ってきたんだった。
"別々?"
"だから、洗濯。お前、嫌じゃないの。そういうお年頃だろ"
要するに、アレだ。
"パパのオヤジ臭のする下着と私のを一緒にしないで!"とか"お風呂のお湯、張り替えなきゃやだ!"とか、思春期あるあるを心配したらしい。こっちからイヤって言われたらオヤジ認定されたことになるから、そのショックを回避するために自ら提案してきたみたいだった。
「どっちが乙女なんだか」
オジさんのハートはとっても繊細にできてるらしい。
"いいよ、別に。非経済的じゃない?"
二回に分けたら時間も手間もお金もかかる。それにそもそも正直そういう拒絶反応って自分の中にはなかったのだ。
もちろん羞恥心はあるから、パパに自分の下着洗濯されるのは絶対ごめんだけど、"匂う、汚い、だからやだ"って思考はなかった。
「…………今日、遅いのかな」
時計を見遣る。
時刻は夜の八時。今日は外で食べてくるから、夕飯はいらないって朝から言ってた。
飲み会って言い方をしなかった。でも、朝から言ってたから残業の末って訳でもなく、計画的なものだ。
雨木はるかさんのことが頭を過る。
「相談、乗ってるのかな……」
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