私はなんにも分かってない【雨木はるかの場合】 その3-6

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私はなんにも分かってない【雨木はるかの場合】 その3-6

「その点、雨木はちゃんと考えてるみたいだな」  そう言われて、頭の中がちゃんと仕事の方へとシフトした。 「あ、はい。その……」  下心は置いておいて、今日の本題。 「うちの会社、若手に向けた海外研修があるじゃないですか」 新人と呼ばれる時期を過ぎた社員を対象にした、育成プログラムについてだ。 「あの、実は前から興味があって」 「あぁ、アレな」 「チャレンジ、してみたいんです」  今の仕事に不満がある訳じゃない。メンバーにも恵まれていて、本当にやりやすい。このグループに配属される前にいた部署は仕事の内容の前に人間関係がややこし過ぎて、毎日それだけでへとへとだった。それを思うと、本当にいい部署なのだ。 「あの、今の仕事は仕事ですごくやりがいあるんです。それはそれで本当なんです」 「それは見てれば分かる」  誤解はされたくないと思って言ったら、五条さんは鷹揚に頷いてくれた。  あぁ、なにその口許に浮かべられた微笑。カッコいい。 「えっと、その、あの研修、でも大体三十前後の社員がメインターゲットだって聞いてて、そういうことならリミットもあるし、今なら自分も身軽だし、自分としてはここがタイミングなんじゃって思ってて」  年齢っていうのは、この年になると常に制限を持って追い回してくるものだ。 「確かに今くらいがいい時期かもな」 「あの、私がどれくらいチーム内で戦力になれてるか分かりませんが、人事って複雑だし、一人抜けたら普通に考えて一人要る訳じゃないですか」  人を融通できないなら、残りの人間でその人間の仕事を負担しなければならない。 「異動って、一方的なものじゃないって分かってるつもりです。互いの部署で上手いこと人を回していかなくちゃいけない。すり合わせがあるものですから」 「まぁな。でもそこら辺を考えるのは管理職の仕事だよ」 「はい…………でもあの、研修に参加するにも選考があるし、それに際して推薦文も必要です。私の一方的な希望なんですが、グループ長としてはいかがでしょうか」
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