分かってない その4-2

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分かってない その4-2

 あれから、パパとはあまり顔を合わせてない。  パパは家に帰って来るのが少し遅くなって、休日もジムに行ってくるとか言っていつもより頻繁に出掛ける。と言っても同じ家で暮らしてるんだから、顔を合わせないようにしようとしても限界がある。  私達はまるで氷の上を歩くように慎重に、けれど何てことなさそうな空気を装って、当たり障りのない会話を交わす。  そんな生活も、もう十日を過ぎてしまった。  パパは私を避けてるって部分もあると思う。でもそれよりはこっちに気遣って距離を測ってくれてるって感じの方が強い。  毎日疲れて帰って来るのに、安らげるはずの家の空気をこんなのにして申し訳ないと思った。  最初から分かっていた通り、口にしてしまったあの瞬間から私には後悔がどんどん押し寄せて来ている。  それでも、私はあの告白を誤魔化しも撤回もしなかった。 "ごめん、冗談なの" "パパの言う通り、ちょっと不安になっちゃってたみたい"  嘘であることが丸分かりでも形だけでも取り繕ってみせることは可能だったけど、そんなことをしてこれ以上後悔の上塗りはしたくなかった。  他人から見て、私の気持ちがどう映るのかは分からない。  でも、疚しい後ろめたいものなんかじゃないって思いたい。失恋エンドしかないけど、これはそこらにある恋愛と一緒なんだよってせめて思いたい。 「でも帰り辛いな……」  バイト帰り、時間を潰したくて近くのモールをうろうろしてたら、結構いい時間になってしまっていた。  腕時計を見ると、時刻はもうすぐ八時半というところ。  交差点で信号待ちをしながら、お腹空いたな、と思う。時間を潰すことに集中し過ぎて、途中でごはんを食べるのを忘れてた。  駅の周りにいくつか飲食店があるから、どこかで食べて帰ってもいいかもしれない。今からならラストオーダーに間に合うだろうし、何より家で作る気力が湧かない。ストックを電子レンジで解凍するのを想像するだけでも億劫な気持ちになる。 「何となく、和食の気分だけど……」  どんなお店があったっけ、とスマホを取り出す。  それにしてもいつも思うけど、ここの交差点は信号待ちが本当に長い。なかなか歩行者信号は青に変わらない。 「!」  途切れず目の前を横切って行く車を眺めてたら、不意に飛び込んできた映像に心臓が疎んだ。 「パパ…………」
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