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分かってない その1-3
「お迎え、ありがとう」
「お前なぁ……」
運転席の人物が渋い声を出す。
クセのない黒髪、すっと通った鼻筋。目付きがちょっとキツいのがアレだけど、分類するならイケメンの部類に滑り込めると思う。最近年齢が良い具合に顔に出て来て、ほんのり渋みも漂ってきたと思う。本人がそれをどう思ってるかは知らないけど、個人的には好みだ。この調子で是非イケオジになって頂きたい。
「あんな見るからに下らなさそうなのに引っかかるなよ」
「引っかかった訳じゃないよ。一方的に迫られただけだもん。気を持たせるようなことした覚えもないし」
当たり障りのない会話を交わした記憶がちょっとあるだけだ。別にその時あざとく上目遣いしたり、さりげないボディタッチを挟んだりしてないし。
「アレだね、香凛ちゃんがナチュラルに可愛過ぎるのが問題なんだね」
ふざけて言ったら、一笑に付された。
「彼氏一人、まともにいたことがないだろ」
仰る通り。
遂に二十年を迎えたこの人生で、残念ながら"彼氏"と呼べる存在ができたことはない。
でも告白されたことはあるし、別に恋を知らない訳じゃない。
私は、片思い歴が長いだけなのだ。年季の入った恋をしてるのだ。
「何さ、じゃあ適当に彼氏作ってみようか?」
できない訳じゃないと思う。さっきの高木さんだか高橋さんとやらみたいなのはごめんだけど、その気になればどうにかなるはずだ。何たって皆青春したいお年頃な訳だし。
でもすぐに嗜められる。
「適当はやめなさい。ちゃんと好きになった人と付き合えよ」
ほら、そんなことを言うじゃないか。
"ちゃんと好きな人"って言われたら、私にはもう限りなく選択肢はないっていうのに。どうしようもないのに。下手したら一生独身コースなのに。
そりゃ私もちゃんと好きな人とお付き合いしたい。当たり前だ。
だから若さを浪費して十四の年からずっとずっと何の進展も見せない片思いを続けているのだ。
それで、気付いたらもう二十歳。
そろそろ私も焦ってるし、絶望もしてる。短気を起こしそうだし、どこかで何かしら行動しなければならないとも思っている。
"好き"の周りに他の色んな感情がぐちゃぐちゃに絡まって、どうにも動けなくなっている。動けないと思いたがっている。
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