分かってない【パパ編】 その2-2

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分かってない【パパ編】 その2-2

 勘違いかもしれない。  だが、何か決定的なことを言われる前に、上手いことこの空気をどうにか処理してしまわなければならないと思った。  香凛は、不安なだけだ。  自分の身の上を不安に思っているだけだ。既に両親は亡く、直接的な血の繋がりのある父方の祖父母ももう高齢。普通に考えれば香凛のことを置いて逝ってしまう。父の弟である叔父との関係はそう悪くないようだが、如何せんあっちは完全に海外に根を下ろしてしまっていて、そう気軽に頼れる相手ではない。  いつか、自分が縁者との繋がり全てを失うことを思って、多分香凛はいつでも不安を抱えている。  いくら普段“パパ”と呼んでみせても、オレは赤の他人なのだとそう認識している。この関係は期間限定で、近い内ここを出ることがあれば、そう気軽に頼れる存在ではないと。  香凛は、不安なのだ。当たり前だ。  大きくなったとは言え、まだ社会に出ていない。生きていく強かさを身に付けている訳ではない。将来はぼんやりとしていて、想像もつかないことだらけだろう。  普通はそういう時、身近な大人を参考にしたり頼ったりするものだ。けれど、香凛にはそう気軽に、手放しで頼れる相手がいない。  香凛が、オレに対して申し訳なく思っていることを、オレも理解している。自分を抱えたことでオレが色んなものを犠牲にしたとそう思っているから、多分香凛はオレの庇護下を出たら、そうそう気安く頼ってきたりはしないだろう。予想はついていた。  だから、そんな風に思う必要はないのだと、血が繋がっていなくとも親代わりにしてくれて良いのだと宥めるように声をかけた。  間違ったことは言っていなかったと思う。模範解答と言うべき返しだった。  だが、 “私が言ってるのはそういうことじゃないの。不安だからこんなこと言い出してるんじゃない”  香凛の訴えは、オレの模範解答を跡形もなく吹き飛ばすようなものだった。 “私に、パパの隣にいる権利を保証してくれるなら、私をパパの特別にしてよ”  言わせてはいけなかったのかもしれない。 “パパの恋人にしてよ”  だってそれは、オレが果たすべき役目ではないのだから。
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