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分かってない【パパ編】 その2-4
息の詰まる日々が一日、一日とまた積み重なっていく。そうこうしている内に、香凛の誕生日は明日というところまで迫って来ていた。
祝って、プレゼントを渡すという雰囲気ではないのだが、何もしないのも問題だ。
だが、結局プレゼントの用意もままならなかった。望むものは逆立ちしたって用意してやれないし、では代わりに何かと思っても、何を贈っても香凛の傷を深くするだけに思えてどうしようもなかった。
しばらくは顔を合わせる頻度を抑えた方が良いだろうと、連日ジムに寄ったり、外食で済ませたりしていて、その日も部下を連れて飲みに行っていたところだった。
一次会が終わって、もう一軒行きましょうよと言われていて、あぁそうした方が帰る時間を遅くできるなと考えていた。
信号待ちの交差点で香凛の姿を見かけたのは、本当にすごい偶然だったと思う。
スマホの画面に視線を落とした香凛。
無表情に見えるその顔に胸が痛んだ。
このまま、香凛とオレの関係は緩やかに崩壊していくだろうか。
もう二度と、屈託なく笑い合えないのだろうか。――――合えないのだろう。
軽く酔いの回った部下達の雑談に適当に相づちを打ちながらも、視線は自分が渡らない方向の交差点へずっと向いていた。
香凛がこちらに気付く様子は一切ない。チラとも見やしない。いや、目が合ったってお互い困るだけなのだが。
「聞いて下さいよぉ」
「聞いてる聞いてる」
絡まれて目を離したのは多分数瞬だった。だが次に盗み見た時、飛び込んで来た光景に竦んだ。
香凛が男と何か話し込んでいる。
さっきまで横断歩道を渡ろうとしていたはずなのに、それとは別の方を向き、何やら近い距離で言葉を交わしている。
誰だ、その男は。
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