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分かってない【パパ編】 その3-2
最寄りの駅で降りて、徒歩数分。住み慣れたマンション。
敷地の入口から部屋のある五階を何ともなしに見上げたが、ここからでは窓に面してないので明かりの有無は分からない。
一階で待機していたエレベーターに乗り込めば、すんなり玄関まで辿り着いた。
キーケースから取り出した鍵を差し込めば、素直にドアは開く。
だが、開けたその先はしんと静まり返り真っ暗だった。
――――帰っていないか。
希望的観測は、やはり希望的なものでしかなく現実にはならない。
入って電気を点けると、けれど玄関の隅には女物の靴が一足ちょこんと存在していた。
「香凛?」
案外帰って来ているのか? いや、今日は違う靴を履いてて、単にこっちの靴は出しっぱなしになっているだけか。
今日はどんな靴を履いてたか。先ほど見かけた姿を思い浮かべてみたが、当然足元に気なんて配っていなかったので、あまり意味はなかった。
視線をやった廊下も、ダイニングもリビングも暗い。人の気配はない。
それでも、部屋に籠っているのかもしれない、なんて考えが浮かぶ。
「香凛、いるか?」
ノックをしてみても返事はなかった。
少し考えてからそっとドアを開けてみる。
やはりそこには真っ暗空間が広がっているだけだった。
「………………」
電気を点けてみる。自分の素っ気ない部屋とは違い、柔らかな色彩の部屋。ベッドで既に丸くなってる可能性はないかと視線を向けてみたが、そこはぺしゃりと均されていて人の気配はなかった。
安心したくて、もしかしてもしかしてと考えてしまう自分に呆れてしまう。
ベッドの上のテディベアと目が合えば、知らず知らずの内に溜め息が出ていた。
「オレは何やってんだ……」
何を、やってきたんだ。
どうして、こんなことになった。
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