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分かってない【パパ編】 その3-4
無人の部屋を何気なくもう一度見回すと、次は机の上に出ているものに目が留まった。
小さな丸い缶。花が散らされたその缶には何となく見覚えがあった。
「…………一昨年の、誕生日?」
相も変わらずオレは年頃の少女が好むものを知らないので、プレゼントは毎年リクエスト制を取っていた。一昨年はフレグランスで人気のとある店の限定セットが欲しいと言われたはずだ、と思い出す。
あまり何も考えず、それを手に取る。持ち上げると、それは随分軽かった。
そうだ、もうきっと中身は使い切っているのだろう。
でも、捨てずに取ってある。
何故取ってあるのかその理由を考えて、オレがプレゼントしたものだからかという発想が浮かんだが、いやいやと咄嗟に否定していた。
違う違う、アレだ、綺麗な缶だからだ。何か小物を入れるのに使えるからだ。
女の子はほら、そう言って色んな物を取っておく。そういうヤツだ。
けれど視界のあちこちに映る小物の一つ一つに見覚えがあって、随分古いものもあって、大切に取り置かれているそれらにドキリとした。恋人にしてと言った香凛の顔がフラッシュバックした。
香凛は物持ちがいいのだ、物を大切にする子なんだ、と自分を納得させる。
部屋に見覚えのある物が溢れてるのなんて当然だ。
一緒に暮らしてて、家計はオレが支えていて、オレが買ったものがこの部屋に沢山あるのは、至極当然のことなのだ。
いつまでも勝手に部屋にいるのは悪い、そろそろ出てしまおう。
そう思って、手にしていた缶を机の上に戻そうとした。
カサリ――――
だが、その瞬間、軽々とした缶の中で何かが動く音がした。
「?」
感じ的に、もちろんクリームが残っているといったものではない。
何だろうか。
プライバシーという言葉が一瞬頭を過ったが、反射的に手が動く方が早かった。
「え…………」
小さな缶を開けたその中には、
「リボン?」
色とりどりのリボンが数本綺麗に渦を巻いていた。
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