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分かってない【パパ編】 その3-5
赤、ピンク、白、ゴールド、ロイヤルブルー、オレンジ。
「何だこれ」
これも何かに使えそうだと取っておいたものだろうか。まじまじと眺める。
そうして、眺めている内に気付いてしまった。
「これ――――」
数本の内の一つに、英語で印字がしてある。
読み上げて、それが店名だと気付いた。何年か前に、香凛のプレゼントを購入した店の名前が印字してあるのだと。
「プレゼントの、包装に使われてたリボンか……!」
大事に大事にしまわれていた、そっと隠されていたそれは、香凛の気持ちを形にしたようだと思った。
そうだ、香凛はきっと自分の気持ちを今までずっと押し込めていた。
迂闊な娘じゃない。オレを困らせるようなことを進んでするような子じゃない。
恐らく、あんな形で心を吐露するつもりなんてなかったのだ。
こんなリボン一本手放せないような、そんな大切に育てて来た気持ちを、オレは受け取ってやれない。
綺麗な綺麗な恋心を、認められない。
激しい動揺が胸を占拠していた。
「香凛は、娘だ」
いつか、香凛を幸せにしてくれる、それに相応しい相手が出てきたら、オレは香凛を送り出す。
香凛を守る役目をその男に譲り渡す。
「娘だろ」
なのに、さっき目撃した見知らぬ男と香凛の姿が頭からこびりついて離れない。
あの時感じた耐え難い不快感や焦燥感、そして喪失感。
ずっと見ないようにしていた何かが、刺激される感覚。
香凛は、娘だ。娘だ娘だ娘だ。
なのに、この我慢ならない気持ちは何だ。他の男の介入が許せない狭量さは何だ。
親心なのか。保護者として心配だからなのか。本当にそれだけなのか。
それだけであるべきだ。だが。
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