分かってない【パパ編】 その3-6

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分かってない【パパ編】 その3-6

 恋人にしてと言われた時、何を言ってるんだと思った。受け入れられるはずがないし、許されるはずもないと。  だけど、そわりと心の底を微かな期待が掠めた。  オレはでも、その心の動きを認める訳にはいかなかった。  オレはロリコンじゃない。分別はあるつもりだ。  香凛は娘だ。娘として育ててきた相手に、恋愛感情なんて持たない。オレはそんなヤバいヤツではない。決して違う。  香凛を可愛いと思うのは、だからただの親心なのだ。ずっとずっとそう思ってきた。  でも、でもいつからか違和感をどこかで覚えていたこと、それに無理矢理蓋をしてきたこと、自覚はあったのだ。  時折香凛がこちらに向ける、あまりに真っ直ぐな気持ち。  他の誰に向けるのよりも信頼しきった笑顔。  どこか質が違うその表情に、時折ドキリとすることがあった。  制服を着ている内はまだ良かった。  香凛が時折見せるその表情に、オレは“あぁ、香凛も大きくなったもんだなぁ、あんな大人びた表情をするようのなったんだなぁ”と、あくまで保護者の目線でそう理由をつけられたから。  だが大学に入って、制服という記号を脱ぎ捨てて、化粧を覚えバイトを始め交友関係が広がり出した香凛は、どんどんと子どもの部分を脱ぎ捨てて行った。  そんな香凛に何某かの魅力を感じる自分が、オレは怖くなった。  なったから、香凛を娘という枠に意識的に押し込めた。  アレだ、成長が著しくて、驚きに心がついていっていないだけだ。それだけだ。  悪い虫がつかないか、そういう心配だけしていればいい。オレはただ、娘の成長に感銘を受けている。それだけだ。  それは実に正しい処置だったと思う。 「だが……」  今夜、自分の心の内がはっきりと明るみに出てしまった。  あの交差点で、香凛を見て、オレは確かに思ったのだ。  他のどんなヤツにも香凛を渡したくない。  そう思ってしまうほどに、オレは香凛を愛している。  親子の情とは、全く別物の感情で――――  どうかしている。この気持ちを認めるなんて、どうかしている。  でも我慢がならなかった。他の男が香凛に触れることを想像したら、本当に我慢ならなかった。  しかもそれが失恋の果てに自棄を起こして、本当に好きでもない相手とどうこうなっているかもしれないのかと思うと、堪らなくなった。  どこの馬の骨とも知れないポッと出の男にくれてやるために、今日まで香凛を育てて来た訳じゃない。冗談じゃない。  それに。  リボン一本をこんなに大切に取っておいて、そっと忍ばせるようなそんな気持ちを、気の迷いなんて言葉で見過ごしてしまっていいのか。それは本当に正しい対応なのか。 「はは、一番身近な男が、一番悪い男じゃないか」  まだ、間に合うか分からない。本当は自分の気持ちを晒すことは間違いなのかもしれない。  だが、これ以上香凛を憔悴させたくない。自暴自棄な行動に走らせるような状況を続けたくない。  香凛を笑顔にしたい。幸せにしたい。  例え、周りからどれだけ謗られようと、一つも理解を得られなくとも。  未だ帰らない、連絡一つ寄越さない香凛に心配を募らせながらも、オレの心は定まっていた。  そして、あの夜、オレは娘だと言い張っていた存在に遂に手を出したのだ。
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