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分かってない【パパ編】 その4-1
「それでだな、征哉。見てくれ、このラブリーショットを!」
眼前に突き出された液晶画面にピンとを合わせる。
くまか何かのみみのついた可愛い衣装に包まれた乳児。
「奥さん似だな。目元とか特に」
「だろ」
デレデレした表情で向かいに座るの藤方広平。高校時代からの腐れ縁である。
スマホに映っているのは、半年ほど前に生まれた二人目の子どもだ。目元のくりっとした女の子。
「いやぁ、これは将来変な虫がつかないか心配だよ。今から気が気じゃないね」
気持ちは分かる。オレだって同じ心配をして香凛を育てて来た。
明るくよく喋り、人の懐に入り込むのが上手い。それが広平という人間だ。
性格的にはそれほど共通点はないのだが、何故か馬が合ってずっと付き合いが続いている。
広平相手だと気負うところが何もないので、気楽に過ごせる。
高校・大学と一緒で、その後は違う会社に就職して道は分かれたが、いまでもそれなりの頻度でこうして飲みに出かける仲だ。
「はぁ、女の子って可愛いよな。着飾らせる楽しみ? があるよなぁ。航生は航生で、同じ男で趣味とか一緒に共有できる楽しみがあるし、今、オレは両手に花状態だよ」
それは使い方が違うだろ、と思ったが幸福呆けしている本人には言わずにおいた。
広平は子どもはもちろんのこと、嫁のことも溺愛していて、いつ会ってもその溺愛っぷりは変わらない。スマホのフォルダは常に家族の写真で埋め尽くされている。
「それにしても」
一通り惚気終わって気が済んだのか、いそいそとスマホをポケットに捩じ込みながら広平が言う。
「香凛ちゃんがいないこんな時ばっかり、お前付き合い良いよな」
会うと必ず惚気られるのだが、一通り惚気終わると広平はスパッとモードを切り替える。延々変わり映えのしない惚気を聞かされることはなく、そういうメリハリと気遣いのあるところがコイツのいいところだと思っている。
「何言ってんだ、そんなことに関係なくいつでも相手してやってるだろ。夫婦喧嘩で凹んでる時とか、里帰り出産で時間持て余してる時とか、仕事のストレスがマックスとの時とか」
弱るとすぐに連絡してくる。オレは割と律儀に相手をしてるつもりだ。
「って言うか、何で今香凛がいないって知ってるんだよ」
確かに香凛は昨日から不在だった。春休みを利用して、父方の祖父母の元に泊まりに行っている。帰って来るのは三日後の予定だ。
だがオレはそれをこの友人に話した覚えはない。
「だって香凛ちゃん、昨日ちょっとウチに顔出してくれたから。その時聞いたんだよ」
「は? 香凛がお前の家に?」
その昔、香凛が幼い内はそう気軽に飲み歩けなかったので、広平と飲む時はウチに来てもらうことも多く、だから二人は知り合いだ。
色々と香凛――というか年頃の女の子の対応について相談することもあって、それがきっかけで香凛自身、広平の嫁さんとも面識はある。
だが、気軽にお宅訪問するような仲だっただろか。
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