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分かってない【パパ編】 その4-2
「仄香の出産祝いに来てくれた。口にしても大丈夫な安心素材のおもちゃくれて、深雪も喜んでたよ」
「……聞いてなかった」
出がけにカバンの他に何やら紙袋も持っていたが、祖父母への土産だろうと思っていた。
「ほれ見ろ、ウチのラブリー仄香とお前の可愛い香凛ちゃんとのキュートなツーショットを」
仕舞ったと思ったスマホをまた取り出して、見せつけられる。
確かにそこには赤ん坊を腕に抱いて微笑む香凛が写っていた。
子どもを抱いている香凛というその図が珍しく、見ている内に頭の中で妙な妄想が浮かんで、それはいくら何でも先走り過ぎだとストップをかける。
それにしても広平の言う通りなかなかにいい写真だった。
だが、いい年していい年した娘の写真が欲しいなんて口が裂けても言えない。
広平のスマホに香凛の写真データがあって、自分のスマホにないのは何か釈然としないものがあったが、仕方がないと嘆息した時、テーブルの上に置いていた自分のスマホが振動した。
「?」
覗き込むより早く、広平が言う。
「今の、送っておいた」
「……別にくれとは言ってないが」
心の中だけで小さく拳を握っておいて、口では興味がなさそうな風を装う。それに見事に騙された広平は、“征哉、よく聞け”と神妙な顔で語り出した。
「目に見える思い出っていいもんだぞ。それに小さい時はいくらでも機会があっただろうけど、大きくなってきたら写真撮ることなんて滅多になくなってくるしさ。有難く納め給え」
「へぇへぇ」
気のない返事をしてみせたが、確かにそれはそうだった。
記憶を辿っても香凛にカメラを向けたのなんて、大学の入学式が最後だ。もう三年前の話である。一緒に映っているものとなると、一体いつが最後だったのか思い出せないレベルだ。
だが、正直今更香凛とツーショットは勘弁願いたいと思う。
きっと写真にして見返したら、オレはそこに映る現実にそれなりに打ちのめされるだろう。どう考えても、そこにはオッサンと若い娘、としか言いようのない光景が写っている。
親子――――にはギリ見えなくても、恋人にだって見えない二人が並んでいるに違いない。
自分と香凛の年齢差を頭では理解しているつもりだが、客観的に突きつけられた時の精神的ダメージはきっと大きい。
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