分かってない【パパ編】 その4-3

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分かってない【パパ編】 その4-3

「なぁ征哉、また遊びにおいでって香凛ちゃんに言っといて。航生もお姉ちゃんが来たって喜ぶし、深雪も香凛ちゃんのこと“こんな妹欲しかった”って好いてるからさ。まぁ若干深雪が香凛ちゃんを着せ替え人形の如く振り回したりするから、ちょっと申し訳ないけど」 「いや、香凛だって気心知れた同性の年上の知り合いがいたら頼りになるだろうよ。お前の奥さんにはいつも気遣ってもらって感謝してる」 「そう言ってもらえると嬉しいけど」  十六の歳の差は大きいな、と事につけて思う。  香凛に、恋人らしいことをしている時は名前で呼ぶことを要求しているのは、やはり外聞を気にしてのことだった。  家で二人きりの時はいい。別に何も構わない。  だが、例えば外で手を繋いで歩いている時に“パパ”なんて呼ばれた日には、きっと周りからは援交を疑われるに決まっている。まさにそんな感じにしか見えないことだろう。警察に職質をかけられたとしても、そらそうだよなと思うしかない。  だが、実際にそんなことになったら、オレはかなりの精神的ダメージを受けると思う。  それに、真実をどう弁明すれば良いのか分からない。  援交ではない、一般的な交際だと言ったところで、次は“パパ”発言をどう説明すれば良いのか。まともに説明したら、多分そこから不純異性交遊とか性的虐待とかとんでもない冤罪ワードが飛び出してきそうである。 「広平」 「うん? お、何だこの豆腐グラタン、結構イケるな……」 「お前と奥さん、いくつ年離れてたっけ」 「ん? 六つだけど」  六つ。 「この年になると正直気にならないけど、でも昔はちょっと大丈夫かなぁと思ったことあるよ。だって向こうがランドセル背負ってる時、オレは高校三年とか、そういうことだろ? 実際その当時に付き合ってた訳じゃないけど、ほら、オレ、深雪のカテキョやってたのが最初の出会いだからさ、教えてた当時どうこうなった訳じゃないけど、何て言うの、やっぱり教え子に手を出したみたいな? そういう悪いことしてるんじゃ……みたいな意識はあったよ」  その言葉が数倍の威力を持って自分に撥ね返ってくる。
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