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分かってない【パパ編】 その4-4
こっちは六つどころか十六差があって、ランドセル背負ってる頃には疾うに社会人をしてて、教え子どころか娘扱いしていた相手である。
「だから向こうの親に挨拶行く時は滅茶苦茶緊張したよなぁ。当然向こうはオレがカテキョしてたの知ってる訳だからさ」
そう、そういう問題もある。
香凛とオレの間に特に問題がなくとも、自分の親や周りの親戚に報告が必要な段階になったら、一体どうなるのだろうかと。
「ま、でもそんなのも最初だけだな。今オレが三十六で深雪が三十だろ。よくある年齢差だよ」
「まぁ……そうだよな」
「うんうん。お、征哉、もうグラス空じゃん。次頼む?」
「え、あぁ」
「すいませーん、生、えっと二つ追加で!」
分かっていたことだ。
だから香凛に手を出すと決めた時、オレはそれらを間違っても別れる理由にしないと心に決めていた。
香凛が理由にすることがあっても、オレが年とか外聞を理由にすることはない。
ただ、現実問題ハードルの高い事実ではある。
今後の在り方については、よくよく吟味しておかなかくてはならない。
「はい、生お待ち!」
綺麗な泡を湛えたジョッキがやって来る。それをぐっと飲み干しながら、向かいの席の広平を見遣る。
香凛とのことは、一番と言っても差し支えのないこの友人にもまだ話せていなかった。
広平は、いいヤツだ。
オレが香凛を引き取って育てると告げた時も、目を真ん丸にしては見せたが、その後すぐに“その子にとって、いい保護者になれよ”と言ったのだ。それから、“手助けが必要な時はいつでも言えよ、最優先はその子だからな”とも。
何でとか無理だとかやめておけとかお前の将来はとかお互いの為にならないとか、沢山の人間がオレに向けてきたようなセリフは一切言わなかった。そんな人間はコイツだけだった。
あの時、ただすっと事態を理解し受け入れてくれた広平に、どれだけ救われたことか。
否定や反対されることに疲弊していたオレには、広平のその態度がすごく有難かった。
だが、香凛とこんなことになっていると知ったら、さすがに眉を顰められ、色々言われるかもしれない。
あの時みたいにすっと肯定されることはないだろう。
それでも、時機を見て、いつか自分からきちんと説明したいとは思っている。
「そう言えばこの春で香凛ちゃん、四回生になるんだっけ」
「あぁ」
広平がジョッキ片手に遠い目をして言う。
「あの小さかった香凛ちゃんが来年はもう社会人だもんなー、ウチのチビ達が巣立っていくのもあっという間なんだろうなぁ……寂しい……」
「いくら何でも気が早過ぎるだろ、寂しがる前にちゃんと今を楽しめ」
子どもはいくつになっても可愛いものだが、それでも今目の前にある可愛さは本当にこの一瞬にしかないものだと、そう思う。幼い子どもなんて、一日で驚くような変化を遂げる。赤子ともなれば、成長の勢いは凄まじいものだろう。
「うぅ、経験者の言葉が身に染みるぅ」
酔って来たな、コイツ、と思いながら、オレもつられて幼い頃の香凛のことを思い出していた。
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