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分かってない その2-3
反対の声は、何もパパが私の面倒を見ることがパパのためにならない、というものだけではなかった。
パパに引き取られることが私のためにならない、という声もあった。
“犬猫じゃないのよ! 犬猫でもしっかり責任を持って面倒をみなきゃいけないのよ! それを、こんな小さな女の子を、何の知識も経験もないアンタが引き取ろうなんて、却って無責任だとは思わないの!”
パパのお母さん、芳美おばあちゃんの鋭い声を思い出す。
良い人だ。芳美おばあちゃんは今でも私にイベント毎に贈り物をしてくれるし、食事に連れて行ってくれることもある。本当の孫でも何でもないのに。
パパの若い貴重な時間を全部奪い取った私に、それでも彼女は親切だ。
そしてあの時の芳美おばあちゃんの主張は、どれもその通りだったと思う。
でも結局、今の私の状況を見て分かるように、パパは自分の主張を押し通した。
絶対にちゃんと育てる、周りに迷惑はかけないと言って。
そう言って、また怒られてた。
“働きながらそんなの無理に決まってるでしょ! ここは必要な時は力を貸してくれって頼むところじゃないの!”
いやはや、芳美おばあちゃんは最強です。
あれから、十年。
私はまだパパの元にいる。
本当なら、そろそろここを出るべきだ。大学進学の時、そうすれば良かった。
でも、一人暮らしの許可が出なかったのだった。
“社会人になるまでは、責任を持って育てる。昨今物騒なのに、一人暮らしなんてとんでもない”
これには芳美おばあちゃんも、高久おじいちゃん(パパのお父さんだ)も激しく同意して、だから私はまだここにいる。
まぁ、お金の問題もあったからな。
一人暮らしは、ここでお世話になり続けるよりお金がかかる。お父さんお母さんの遺してくれたお金があるはずだけど、パパはきっと自分で出そうとするだろうし。
そう、パパは基本的に私を含めた生活費は自分の稼ぎから出している。
とんでもないと、遺産から出すべきだと言ったことは一度や二度じゃないけど、それは私の将来のために遺されたお金だからと使っている形跡はない。
遺産を使うのは、学費や習い事の費用だけだ。
それだけはここから出すって決めて、その通り引き落とされている。
残りはきっと、ここを出て行く時に当然のように私に渡される。
ということでそこそこハードな生い立ちながら、人に恵まれまくったおかげで私は実に幸せに生きていた。
そう、幸せ。私、すごく幸せなのだ。
パパと暮らしたこの十年が私を不幸な気持ちにさせたことなんて一度もない。
それは断言できる。
そんな幸せな暮らしに、でも私はまだそれ以上を望んでいる。
それはとっても不埒な願い。そして無謀で希望のない願い。
でも、どうしたって揉み消せない願い。
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