分かってない その2-4

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分かってない その2-4

「ねぇ、メール来てるよ」  リビングのローテーブルの上に無頓着に放り出されていたスマホが振動する。ロック画面にはEメール着信のお知らせ。  キッチンでうどんを湯がいてるその人に声をかけると、 「多分、広平だな。日時についてだと思うけど、何て書いてある?」  というこれまた全く自身のプライバシーに無頓着な返答をされた。 「えーっとね……」  こういうところ、本当にオープンだ。仕事用の端末はそれは当然厳重に扱ってるけど、個人のスマホを見られたくないという意識がないらしい。だからいつもそこら辺に放り出されてるし、ロック画面も隠さず気軽に解除する。  という訳で、私は当然ロックの解き方を知ってて、記憶にある通りに画面をなぞる。  ちなみに私はこんなオープンなの嫌だ。  自分のスマホに入ってるプライバシーは断然守秘したいから、解除方法なんて教えない。  隠したいことないんだろうか。例えば女の人とのやり取りとか。そういう痕跡をスマホから今まで見たことなくて、正直安心するけど、いやそれで大丈夫なのかと心配になる気持ちも一応ある。 「あ、ホントだ、広平君だ」  広平君はパパの学生時代からの友達だ。今でもパパとよく会っていて、私も昔から顔を合わせている。パパと二人で私を遊園地とか水族館とかに連れて行ってくれたこともある。気さくで話し上手な良いお兄さん。 「なになに……」  広平君は良いお兄さんで、昔は勉強とかも見てもらったけど、どうにもちょっぴり機械音痴だ。だから連絡は未だにEメールが主流。ちまたで主流のメッセージアプリを使いこなせない。スピード感が早過ぎて、しんどいらしい。 「来週の金曜日は、十九時頃からならいけるって。ふーん、飲みに行くの?」 「あぁ、アイツ今、嫁さんが二人目産むために里帰りしてて、毎日一人で寂しいってうるさいんだよ」 「あ、そう言えばそろそろか」  広平君には深雪さんという大層可愛らしいお嫁さんがいて、既に男の子を一人設けている。深雪さんが二人を妊娠している話は、そう言えば聞いていた。 「そう言えば、広平君しばらく会ってないな。ね、このメール、香凛ちゃんの予定は? って書いてあるけど」 「アイツ、お前が二十歳になってから、せっかくだから飲みに行きたいって言っててな」 「えー、行きたい!」  それはぜひご一緒したい。広平君と一緒だと、パパはちょっと保護者の色が抜けて年相応って感じになるから見てるの好きなのだ。  でも渋い声を出されてしまった。 「やめとけやめとけ」 「なんでさ」 「アイツ、あんまり酒強くないし、こういう寂しいとか抜かしてる時は大抵絡み酒になるんだよ。送り届けるのも一苦労な面倒さだぞ」  と言いつつ、一緒に飲んであげる気はあるところが、パパの良いところだ。友情は大事にする派らしい。 「ふーん…………」  広平君、深雪さん溺愛してるからな。相当寂しがってるのは簡単に想像できる。 「あ、そうだ。じゃあもう家飲みにすれば? それで泊まってもらえばいいじゃん。そしたら送っていく必要そもそもないし」  今までにも数度あった。そういう時、広平君は大抵このリビングのソファで丸くなっていた。 「あー、うん、まぁそれも一つだが……」  だけどパパの返答は今一つはっきりしない。  何だ? 男同士の秘密の語らいでもあるのだろうか。それなら私の存在が気になるのも分かる。  そんな風に考えを巡らしてると、手の中でスマホが震えた。 「わっ」  画面を見ると、またEメールの着信。  立て続けに広平君だろうか。  あまり深く考えずに反射で指先が動いてしまう。  動かして、でも途中でギクリと強張った。 “To:雨木(あまぎ)はるか”
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