夏よ共に逝け

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 麦わら帽子を目深にかぶり、炎天下のアスファルトの道路を端に寄って歩く。すれちがい通行できない狭い道を、後ろから来た乗用車が速度を落として追い越していった。  遠くに逃げ水が揺らめいている。いくら目指してもたどり着くことはない。わたしは追いかけるのを諦めて道を逸れ、急勾配の石段を上った。心臓破りの坂の先に、目当ての古書店はあるという。  石段はきつかったが、片側に沿って植えられた枝垂れ柳の木陰が思ったより涼しくて心地よかった。  店はすぐ見つかった。住居兼店舗といった風情の、日本家屋だった。店名が書かれた看板を確認して、引き戸を開ける。目の前にせり出した棚にぎょっとした。勢いよく開けたせいで棚から数冊が崩れ落ちてきて、わたしは後退る。 「おや、もう来なさったかい」  引き戸の奥から着流しの浴衣姿の男性があらわれた。ぼさぼさの髪に、丸眼鏡をかけている。おそらくこの人が古書店の店主なのだろう。慌てて散らばった本を棚に戻そうとすると、いい、いい、と店主は首を振った。棚自体が傾いでいるせいで、しまったところですぐに崩れるのだという。 「まあ、とりあえず、お上がんなさい」
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