夏よ共に逝け

　どうやって家に帰り着いたのか、記憶がない。いつのまにかわたしはパソコンの前に座っていた。マウスを操作して、テキストファイルを立ち上げる。
　ぽこり。ぽこり。胸の内から湧き立つ言葉たちがある。それらをかき集めて、捏ねくり回して、あるいはもっと適切な表現を探して。見つけて。
　キーボードで文章を打ち込む。淀みなく流れはじめたら、もう止まらない。うっすらと見えている終着点まで、一気に駆け抜ける。今までの苦悩が嘘みたいに、指が軽かった。
　人はどうして、物語を綴るのだろう。なぜ、自分の言葉で語りたいと願うのだろう。答えのない問いだとわかっている。答えのない問いに自分なりの答えを見つけるために、迷いながら、わたしは言葉を紡ぐ。
　わたしには、書くしかないのだから。