第一話「超能力嫁の日常」

2/2
前へ
/6ページ
次へ
嫁子に言われた刺身を仕事帰りのスーパーで買った。 家に帰ると嫁子が寝ていた。念力で家事をやるので当の本人は寝てばかりだ。 だが嫁子は「超能力を使うと凄く疲れるからさー、寝てエネルギー溜めてんの」と言う。 疲れるなら普通にやればいいのに。 と不満を持ちつつも嫁子の寝相を正して、買った刺身を冷蔵庫に入れた。 すると、物音に気付いたのか嫁子は目覚めた。 「あ、旦那おかえり。刺身は?」 「あるよ」 刺身とビール。それが嫁子の家事当番最後の締め。 「いやー、うめー」 俺より先に刺身を食べ、俺より先にビールを飲み、俺より先に舌鼓。 決して亭主関白ではないが1日寝転んで過ごす嫁子に少し腹が立つ。 「旦那ありがとね。やっぱマグロだわ。サーモンも好きだけど」 嫁子がさり気なく言う「ありがとね」が妙に嬉しくも思う。 「あ゛ーー、ビールが染みるわ!」 また先に言われた。 嫁子がマグロを食べ切ると、開放感からか天井を見上げて叫んだ。 「あ゛ーーーーっ!! マグロ一匹丸々くいてぇなぁー!!!」 一瞬、時空が歪んだような気がした。 「今、地震あった?」テレビを付けて確認するも今日も俺たちの世界は平和だった。 その時だった。ベランダの窓ガラスを突き破って俺らの食卓へ何かが飛び込んで来た。 「うひゃあいっ!。?、」窓ガラスが割れる音に、俺は言葉にならない悲鳴を上げた。 目の前には威勢の良いクロマグロがピチピチと食卓の上で跳ねていた。 俺は思わず叫んだ。ちょっとしたパニックだった。 「な、なんだこれは!!? どこから?! どこから来た?!!」 ふと、嫁子を見ると頭を抱えて苦笑いをしていた。その仕草は嫁子が何かやらかした時のポーズだ。 「ごめーん。感情高ぶり過ぎてマグロ思い浮かべたら、何か勝手に出て来ちゃった」 「出て来た?? どこから??」 「わからん。イメージしたらマグロからこっちに来てくれた」 「テレポート??」 「そだね」と言いながら嫁子は余ったサーモンを食べた。 「送り返せ! 今すぐに!」 この後、マグロは嫁子によって無事に元の海域にテレポートできた。たぶん。 来週から家事当番は俺になる。 まともな一週間をようやく送れる気がした。 超能力嫁子、恐るべし。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加