第二話「仕事の愚痴は持ち帰らない」

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翌日の会社での事。 俺は目を疑った。二面性サイコパスヒステリックおばさんこと、乙骨子さんが小指を骨折して松葉杖で出勤していた。 「乙さん、大丈夫ですか?! 何かあったんですか?! 念を飛ばされたとか?!」 心当たりがあった故に思わず言ってしまった。 「念? いいえ。ただ自宅のテーブルの足に小指をぶつけただけよ」 嫁子の超能力はもはや呪いまで可能なのか。 この日は1日違う意味でハラハラしながらの仕事だった。他にもどこか痛めたり、災難が降り注ぐのではないかと気が気では無かった。 そしてその心配は的中した。 「痛い!」 「いったい!!」 「痛!!!」 「あ゛っ!! もうー、なんなのよ!」 乙さんは片足で歩くのだが事あるごとに折れていない方の小指をぶつけていた。 それは見ているこっちが痛くなりそうなほどまともに、そして頻回に起きていた。 足の小指をデスクの足の角にぶつける。 これほど地味な不幸はない。 この日に限って乙さんは片足の靴をラフな便サンダルに変えていた。 剥き出しの小指を、みんなのデスクの足が襲う。恐ろしかった。 短時間で何度もぶつけた小指はマニュキアが剥がれていた。 乙さんもこんなにも小指をぶつけた事がなかったのだろう、憔悴していた。 同僚の秘書子の元へ乙さんがまとめた資料を納めに立ち上がろうものなら、周囲の全員が 立ち上がり、乙さんを止めた。 「乙さん! 私が持って行きますから、座ってて下さい!」 みんなで乙さんを労り、気に掛けた1日だった。 家路につくと、海外ドラマの来シーズンに期待を寄せている嫁子を見て、今日の事を言おうか迷った。 ある事を思い出した。 嫁子との交際期間で一度だけ元カノと食事をした事があった時の事、 変な事は一切なく、元カノが彼氏との間に子供ができて、その相談をされていただけだったのだが、嫁子は勘違いして怒っていた。 それからの数日間、やたら鳥の糞が頭に落ちる事が続いた。外に出たら必ず降って来る。そしてダイレクトに頭に落ちる。もはや鳥が俺の頭を狙っているとしか思えないくらいの頻度だった。 今思い返せば、乙さんと同じ原理が働いていたのかもしれない。 この日から俺は、仕事の不満を家に持ち帰らない事にした。 超能力嫁子、恐るべし。
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