古墳にて

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古墳にて

近所の散歩コースに古墳があります。 古墳といっても、公園の中にある小さな塚のようにしか見えません。 ただ、最近になって市の教育委員会が案内板を立てたり、保護するための柵が新調されて綺麗に整備されています。 その日も古墳を二、三周ほど回るつもりでウォーキングに向かいました。 すると保育園のお散歩でしょうか、十名ほどの幼児と保育士さんたちが反対側から歩いてくるのが見えました。 古墳の脇にはコナラの木が生えているのですが、そこで数人の子たちが立ち止まってしゃがみ込んでしまいました。 「あったあー」「こっちも見つけたー」 どうやらドングリを拾いはじめてしまったようです。 ……可愛え〜〜!!! ニヤニヤを抑えきれず、薄ら笑いを浮かべながら(不審……)、通り過ぎようとしたときです。幼児の一人が近付いてきて「あげる!」とドングリを手渡してくれたのです。 「えーいいのー?ありがとうねええ」顔じゅうの筋肉が緩んでしまいました。きっと輪をかけて気持ち悪い笑みを浮かべていたことでしょう。 こうしてドングリをポケットに入れ、私はウォーキングを再開しました。 突然、ぞわぞわと首筋が粟立つような感覚に襲われました。 なんだか空気がひんやりしてきました。 今日って、こんなに寒かったっけ……? ふと古墳に目をやると、柵の内側から誰かが歩いてきます。 古墳内は立ち入り禁止の筈です。 思わず足を止めてしまった私の前を、それは横切っていきました。 二メートルほどはあったでしょうか。 背が異様に高い、というよりは細長い印象でした。 半纏と股引きを身につけた(時代劇の岡っ引きのような格好)『それ』は、長い手足をかくかくと動かし、柵の間をスルリとすり抜けて外へ出てきました。 体や手足は人間の姿でしたが、頭だけは黒い犬のような形をしていました。 古代エジプトの壁画に描かれたアヌビスそっくりなフォルムです。 彼はそのままヒョイヒョイと歩いていき、住宅街の路地に消えてしまいました。 ―――ジブン、疲れてるのかな……。 もう一周回ろうと思ったけど、今日は止めとこう。 そう思ったとき、先ほどの園児の群れに再び遭遇しました。 「ドングリも小石も、ここの古墳のものです! 勝手に貰っちゃ駄目ですよ!」 保育士さんの声が響いてきます。 そうして園児たちは集めたドングリを返していました。 私も便乗して「おばちゃんも返しておくね」と先ほどのドングリを一緒に返しておきました。なんとなく、そうしたほうがいいような気がして。 すると冷たい風が止んだ気がしました。 日差しが戻り、暖かくなったためか、ぞわぞわする感覚も消えていました。 それからもウォーキングコースとして古墳を回っていますが、特に変わったことは起きていません。 ひとつ、草花や木の実があっても持ち帰らないようにだけ気をつけて歩いています。
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