古墳にて・2

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古墳にて・2

同じ市内に別の古墳があるのですが、こちらは住宅街の中に存在しています。 柵で囲んで保護されているのですが、地元出身の友達いわく「子供の頃は出入り自由だったよー」とのこと。 私が越して来たばかりの時には畑の一角にあったのですが、ある時通りかかった時のこと。 古墳の真ん中にお婆さんがしゃがみこんでいます。よく見ると、彼女は腰まである長い白髪を振り乱し、手で土を掘り返しています。 ギョッとしましたが「昔は出入りフリー」という話を思い出し、 「地元の方が昔の感覚で立ち入り、草むしりでもしているのだろう」と考え、平静を装って横を通り過ぎようとしました。 するとお婆さんが“すくっ”と立ち上がり、こちらを振り返りました。 途端に私は咄嗟に目線を外しました。 目を合わせてはまずいと瞬時に思ったのです。 『目を三角にして怒る』なんて言い回しがありますが、まさにこんな状態の事なのだろうと思いました。 目を吊り上げ、長い白髪を振り乱して何か喚いているのです。 何と言っているのかは分かりません。声にならないというか、そもそも言葉ではないような……。 ただ、呼び止めて何かを手伝わせようとしているのだという事だけは伝わってきます。 何故か、そう感じました。 老婆のことなど何も気付いていない、という風を装ってそのまま通り過ぎました。 だいぶん離れてからそっと横目で古墳を見てみましたが、もうそこには誰もいませんでした。 ふと友人の話の続きを思い出しました。 「昔は出入り自由だったし、おそらくもっと昔は勝手に掘り返していたんじゃないかと聞いたよ。 学術調査の人たちが調べに来たこともあったけど、副葬品のほとんどを盗掘されていたらしいよ」 老婆の正体は分かりませんが、失われた何かを探していたのではと思いました。 それから数年経った頃、畑は売却され、住宅地として工事が始まりました。 今では古墳のぎりぎりまで削り取るようにして、真新しいマンションが建っています。
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