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掘り出し物
古本背取りや古書収集という程高尚なものではないのですが、古本屋さんの空気が好きで見かけるとつい立ち寄ってしまいます。
先日、用事で出掛けた先にも古本屋さんがあり、用を済ませていないうちからソワソワしてしまいました。
帰りに早速店内へ入ってみると、なかなかぎっしり積まれた小説に漫画にCDまで。
しかも値段が安いこと。
内心小躍りしながら店内を一周しておりました。
ふと目についたのが、大御所ホラー漫画家のU先生の作品でした。
それも今では廃刊になっているホラー少女漫画誌(後継誌は健在です)の単行本レーベルのもので、第一集から十冊ほどが綺麗に揃っています。
背取り的な希少価値は不明ですが、私にとっては子供時代の懐かしいコミックス、それも状態も良好です。
荷物になるけど、まとめ買いしちゃおうかなー、と手を延ばしたときです。
「それ、持ち主ね、亡くなったんですよ」
耳元で女の人の声がしました。真横に誰か立っています。濃いグレーのセーターに小花柄のスカート、白くて丸みを帯びた手が見えました。
え?っと辺りを見ましたが、店内には私の他に男性店員さんしかいません。
この店員さんの声?と思いましたが、彼はスマホを開いてどうやらゲームをしている様子です(パ◯ドラ的な指の動かし方をしていたので……)。
気を取り直して、単行本の一冊を手に取りパラパラとめくりました。
発行年数がけっこう経っている本なので、読み込んだ形跡はあるものの、それを差し引いても良い状態です。
第一、このレーベルの出版社も今はないし……やっぱり買おうかな……と迷っていると急にフワリと香りが漂いました。
芳香剤のフローラルな感じの香りが、本に移っているようです。タバコ等の匂い移りはよくある事なので私は気にしないのですが、それにしても匂いがしっかり残っているなあと思いました。
どこかで嗅いだ匂い……懐かしいような……。
あ、これ、お線香の匂いだ。
結局、この作品集を購入するのは諦めて帰りました。
しばらく経ってこの店を覗いてみると、すでに作品集は売れてしまっていました。
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