出ます?

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出ます?

とある町の区役所に出掛けた時のことです。 そこは建てられてから数十年経っており、しかも増築に次ぐ増築を重ねたらしく、たいへん入り組んだ構造になっていました。 案内板を見ながらやっとのことでエレベーターホールまでたどり着くと、先に女性二人組が並んでいました。 すると二人のうち、高齢の女性が「ここって出ます?幽霊。」ともう一人の女性に話しかけました。 突然話をふられた女性は「えっ……いやあ、あまり聞いた事ないですねえ。私、ここに配属されて間もないんですよお……」と明らかに戸惑っている様子です。 よく見れば、連れの若い女性は職員証を首から下げています。どうも高齢女性を案内するため、エレベーターに同乗することになったようでした。 「私も昔は隣の◯◯区役所で働いていたんだけどね、そこはよく幽霊が出ていたのよ。残業するのがもう、怖くて怖くて」 「は、はあ」職員の女性は困惑を隠せない様子で曖昧に頷いています。私も内心この女性の心中を察して気の毒になるやら、ワクワクするやらで聞き耳を立てていました。 「その区役所も古いから、変わった増築をしていたの。 吹き抜けホールがあって、そこを中心にして放射状に八本の廊下を延ばしてね。突き当たりに各部署の部屋を設置してあったの。 それぞれの部署から有事にホールへ集まりやすいようにとか、採光の為だとか、 各部署間を行き来する際に効率がいいからとか聞いたけども詳しいことはわからない。 ただ昭和四十年頃に流行った設計だったらしいわ。その頃に建てられた役場は同じような放射状の棟が多かった。 あるときから夜、吹き抜けホールに女がいると噂されるようになって」 エレベーターが到着し、乗り込みながらも高齢女性は話を続けています。 「……それでね、私も一度みてしまって。真っ赤なワンピースで、長い髪の毛を逆立てた女。 ある時、職員有志でお祓いをしようということになって拝み屋さんを頼んだら、その人に言われたのよ。 『この放射状の棟が良くない。色んなものを真ん中に集めてしまう。そして集まった霊魂は、出られなくなって閉じ込められてしまう 』って。 でも建物自体の作りなんかどうしようもないでしょ?だから、それからも幽霊の噂は絶えなかったわねえ。 ここの区役所も同じような作りだから、何かあるかもよ」 「そういえば先輩で見た人がいるって聞きましたね。やはり女の人の幽霊で……」 職員の女性がポツリと言ったその時、エレベーターは私の目的の階に到着しました。 続きが聞きたかったなーなんて思いながら、ひとりで降りようとしたときです。 「そう、ちょうどこんな廊下よ。貴女、気をつけてね」 高齢女性が廊下の先を指差しました。 その先には吹き抜けがあり、そこを取り囲むように放射状に廊下が延びているのが見えました。 私が行かなければならない部署は、吹き抜けホールを通った突き当たり……。 節電のためなのか建物の老朽化のためか、廊下は照明が点いておらず、ひたすら暗いのです。昼間の役場だというのに誰一人通らず、ひたすらシーンと静まり返っていました。 私は足早に目的の部署へ向かいました。 用事は5分ほどで終わりました。 おそるおそる室外へ出ると、廊下はきちんと電灯が点いており、たくさんの人が行き来していました。
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