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反対派の言い分
隣町にあった工場が移転し、長いこと空き地になっていました。
数年前、そこにマンション建設計画が持ち上がっていると聞きました。
『◯◯町なら駅も学校も近いから人気出そうだもんなあ』と呑気に考えていたのですが、一部住民の方々から反対の声が上がっているという噂でした。
友人がこの近隣に住んでいたため『マンション建設・近隣地区説明会』に参加したのですが、なかなかの紛糾ぶりだったそうです。
いわく、
「あそこは空襲で焼けた病院があった場所だ。
子供の頃は夜になると人魂が飛んでいると噂があった」
「もともと江戸時代まで墓だったと古地図に描いてあった」などなど……。
友人を始め、他の住民は『断固反対派』の方々の剣幕に若干引き気味だったらしく、
「景観が変わるし、マンションの出入りで交通量が増えるとか、困るなーと思うところは私だってあるよ?
でも、なにもオカルトな理由をでっち上げてまでケチつけなくてもねえ……」
と苦笑していました。
紆余曲折を経て着工し、マンションは大方の予想通り即完売御礼だったようです。
ある日、この町に出掛ける機会がありました。
ここが噂のマンションか、立派だし綺麗な造りだな、と思いながら通り過ぎようとしていると、
エントランスから出てきた女性に話し掛けられました。
「すみません、この近所の方ですよね?
ここって事故物件じゃないですよね?」
帽子を被った赤ちゃんを抱っこひもで抱え、恐る恐るといった感じで尋ねてきます。
見たところ若いママといった感じです。
「ごめんなさい、近所ではないんです。
でもここのマンションは新築だし大丈夫ですよ」と答えて立ち去ろうとすると
「首吊りはあったんでしょ?ねえ!知らねえのかよ、使えないやつだなあ!」と突然大声で叫ばれたのです。
え?と振り返ると、女性は私にそっぽを向いてマンションに戻って行くところでした。
抱っこひもが肩からずれ落ちていくので『危ない!』とよく見ると、そこに抱えられていたのは赤ちゃんではなく、帽子を被せてタオルでくるまれたカエルのぬいぐるみでした。
この話を友人にしたところ
「実はマンション完成直前に、外から入り込んだ人が非常階段で首吊りしていた事件があったんだよ。
居室での死亡でなければ、事故物件として告知義務はないらしいんだよね。
だから何も知らずに住み始めた方がほとんどじゃないかな。
むしろ、その女性は何で首吊りがあったことを知っているんだろう?
それに、反対派が言っていた墓地だったという古地図、本当に存在する資料だったんだって。
病院が空襲で焼けた記録もあるし、工場があったときから怪談が絶えなかったらしくて。でっち上げなんかじゃなかったみたい。
マンション、妙に退去する住民が多いと評判だよ。転勤とか介護で実家に帰るためとか理由はさまざまだけど、『長く住めない場所だからこうなったんだ』と反対派だった人達は息巻いてるよ」
と教えてくれました。
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