ここだよね

1/1
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ

ここだよね

ある日の仕事帰り、職場近くの交差点で信号待ちをしていました。 私の前には女子高生二人組が仲良く談笑していました。 すると一人の子が唐突に「ここだよね?あの事件があったマンション」と道向かいを指差しました。 そこは確かに、二年ほど前に起きた殺人事件の現場でした。 当時、出勤中に緊急車両が次々と集まり周囲が騒然としたのでよく覚えています。 ローカルニュースでマンション名が分かる画像が繰り返し流れていたため、この子も知っていたのでしょう。 「ちょっと指差すの止めなよ、そういうの駄目だって」 もう一人の子が小声で制しています。 しかしその女の子は気にならないようで、 「一番上の角の部屋だったっけ?『大◯てる』に書いてあったんだけどさー」と喋り続けていました。 「だから止めなって……えっ!!やばいって!!何あれ!!!」 それまで小声で止めていた筈の子が、急に大声を挙げて後ずさりました。 周りにいた数人の通行人も、女の子の異変に気付いて振り返っています。 「飛び降りるの?!落ちるよあれ!ほら、一番上の手すりに人がぶら下がってる!!」 指差しを嗜めていた方の子がマンションを指し、 『大◯てる』情報を大声で話していた子の方が困惑していました。 「私には何も見えないんだけど……ちょっと、止めてよ……」 私も見上げてみましたがマンションから落ちそうな人なんて見当たりませんでした。 「いたずらも大概にしやがれよ」「そういう悪ふざけは良くないぞ」と厳しい声を掛けて立ち去る人もいるなか、 別の男性が「念のためお巡りさんに見に行ってもらおうか」と声を掛けました。 「いえ……。もう、消えちゃいました。見てたらパッと消えたんです。 だからいいんです……」 女の子はそう言って帰っていきました。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!