すみません

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すみません

ある日の夕方、私は郵便局に向かっていました。どうしてもその日に発送しないといけない書類があったのです。 自転車を飛ばして少し離れた時間外窓口のある局へ行きました。 そこは住宅街の外れにあり、辺りは人影もまばらになっていました。 さて、何とか発送を終えて自転車置き場に戻った時です。 「す……ませ……」 どこからか女性の声がしました。 え、私? 気のせいかなと思い、自転車を出そうとすると 「あの、すみません」 今度は真後ろから、はっきり聞こえました。 「……は、はい?」 思わず答えてしまいました。振り返っても誰もいません。 謎の声に返事をしてしまった……伝承だと、やばいことになるパターンだよね……と不安になりながらも、 「いやいや、疲れてるから空耳だ」と自分に言い聞かせながら帰宅しました。 が、特に何事もなく数年経過しました。 そして先日、また同じ局に行く機会がありました。 この日は車で来たので、あの自転車置き場は通りませんでした。 用事を済ませ、正面入り口から外へ出たとき…… 「すみません」 反射的に返事をしそうになりましたが、ぐっと飲み込みました。 そっと振り返ってみると、やはり後ろには誰もいませんでした。 (『すみません』・END)
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