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不泣姫は絹雨に咲う
雫を受けた蓮の葉が、たおやかに揺れる。
リィシアは庭に降り、いつもより強い雨に眉をひそめた。軒下に戻り、庭を眺める。思い出されるのは、昨日の葬儀だ。
一条の光が差し込んだのも束の間、空は再び雲に閉ざされた。
夏季の訪れを待たずして、養老院の老女・ヨウラは永眠した。
身寄りのないヨウラの葬儀は、養老院でひっそりと行われた。
ある者は俯き、ある者は手巾で目元を押さえ、涙をこぼした。管理者夫妻も、スンも、王弟とその側近も。
全く泣かなかったのは、リィシアだけだった。
絹雨は止むことを知らない。明くる日も変わらずに、空はさめざめと泣く。
衣ずれの音で、リィシアは我に返った。
「……おはようございます、殿下」
こちらから挨拶すれば、相手も気づき、言葉を返してくれる。
「おはよう、お嬢さん」
王族も貴族も、たやすく名乗らない。王弟も、リィシアを「リンハン家の娘」としか知らない。リィシアも、王弟の真名を知らない。名を明かすのは、親族か、愛する仲の者だけだ。
「殿下は、もう少しお休みになられては」
「雨の音がうるさくて、寝られない。それよりも」
王弟は目を細め、リィシアを凝視する。
「きみのことが心配だった」
歩みを寄せられ、リィシアはその分だけ下がり、距離を置かんとする。しかし、庭に降りる段差の手前で、これ以上下がることができない。リィシアは抱きしめられ、息をのんだ。
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