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蓮が咲く養老院
絹雨に濡れた庭に降り、リィシアは深く息を吸った。
このロテュス王国は今、雨期のまっただ中。絹雨と呼ばれる細かく弱い雨が、長い時間降り続ける。
このくらいの雨なら平気でしょう。リィシアは自分に言い聞かせ、護身用の木刀を構える。
リィシアの朝の日課は、素振り20回。数こそ多くないが、心を整える貴重な時間だ。
素振りを終えると、簡単に掃除をし、菜園の世話をする。収穫した野菜は、台所で朝食をつくる。
老人達も起床し、敷地内の簡単な霊廟で一緒にお祈りをする。それから、朝食。今朝は、冬瓜と香味野菜の汁物。それと、粥。汁物は、わずかに豚肉を入れて煮込み、調味料で味を整えた。
老人達は、ひとりひとり味の好みが違う。歯の有無によっても食べられるものが異なる。
毎回の食事は、一種の賭けだ。それでも。
「美味しいよ」
「ありがとう」
その言葉が、リィシアを生かしてくれる。
リィシア・リンハン。16歳。
貴族階級の出身でありながら、家出中。親戚の紹介で、王都から離れたこの養老院に匿われ、1年が経つ。
仕事ぶりはなかなかの評判だが、由来の知れぬあだ名もある。
いわく、「不泣姫」。
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